ヴァイオリンの練習は大変過酷なものだというのはわりと広く知られた話です。TV番組で「天才少年ヴァイオリニストに密着取材」とかいうのが放送されたとすると、大抵が毎日◯時間、朝から晩まで練習して、それでも上手く行かなくて母親に怒られるとかいう内容です。なぜか父親じゃなくて母親。どこの家庭でもやはり教育熱心なのは母親だと相場が決まっているようです。それとも取材する側が「こういう絵が撮りたいんです」と要望して、それらしく振る舞っているだけなのかもしれませんけど。しかもそこまで頑張ってもコンクールで思うような結果につながらなくて落ち込んで泣くとかいうパターン。皆さん他人の努力とか涙を見るのが好きですね・・・。そんな番組を見る暇があるなら自分もなにか努力すればいいのに、そんなことをする人はいません。
諏訪内晶子さんはチャイコフスキー・コンクール開催期間中はホテルにこもって1日15時間練習したとご自身の著書に書かれていました。確かにコンクール開催地がロンドンとかNYなら練習の合間に大英博物館とかを見物するというのも気分転換としていいかもしれません。でも崩壊直前のソ連とあっては練習以外することがなかったでしょうし、下手に外出するよりも練習したほうが良かったでしょう。
その諏訪内晶子さんを育てた江藤俊哉さんも、一流の指導者として知られていますがもちろんご自身もヴァイオリニストとして抜きん出た存在でした。練習熱心すぎて、飛行機で練習しようとして音を出したら怒られてやめたとか、新幹線の個室(昔はそういうものがあったらしい)で練習したとか。はっきり言って音楽に関心が無い方にしてみれば「なんだこいつは」というレベルです。
火災報知器点検でクロイツェルを弾く変な奴
私のことです。火災報知器の点検があるというので私は作業の方をずっと待っていました。が、ただ待っているだけでは時間の無駄です。点検そのものも2時間くらいかかるようです。その2時間、一体私は何をしていればいいのか? 住人という立場上、「喫茶店に行ってきます」などといって作業者を放置していなくなるわけにもいきません。当然ながら立会が必要です。
一瞬『ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』でも一気見しようかと思いましたが、まさかずっとアニメを観ているのも変な奴否ただのオタクだと思われるだろうなということは想像できました。だから私は普通にヴァイオリンを練習することにしました。
作業者が何やら天井の機械に向かってセンサーを当てたり、機械を解体したり隣の部屋に行ったりといった手順を繰り返す間、私は延々と小野アンナで音階を弾き、クロイツェルの同じ箇所を繰り返し、作業者から「図面と実際の配線が違っていまして云々」などという(理解できない)話を聞かされ・・・。でも所詮賃貸であって私の家ではないので内心(あんま興味ないんだけどな・・・)と思いながら、延々と練習を続けました。
私としては2時間とにもかくにも練習をすることができ、時間を有意義に使うことができたという確かな実感を得ることができました。
ただ作業者の方にしてみれば「なんじゃこいつは。ヴァイオリンを弾く人ってちょっとおかしい奴なんだな」と思ったことでしょう。大人しく『ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』を観ていたほうがよかったかもしれません。
*江藤俊哉さんのエピソードは以下の書籍を参考にしました。
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