本当かよ、というニュースを発見してしまいました。
兵庫県姫路市は22日から、リクルート(東京都)と連携し、結婚を希望する市民の出会いを支援する。マッチングアプリなどを運営する同社のサービスを市民が特別料金で利用できるキャンペーンから始め、市は未婚化・晩婚化に歯止めをかけることにつなげたいとしている。
マッチングアプリは、出会いの手段として定着しつつある。市によると、安全に利用できるサービスとして認証を取得している事業者から、まずは同社を選んだ。
最初の取り組みとして、市内に住む20~30代の独身者を対象に、マッチングアプリ「ゼクシィ縁結び」や結婚相談所「ゼクシィ縁結びエージェント」の利用料金を市や同社が負担する。
マッチングアプリのサービスは、3カ月利用の正規料金(1万1880円)が20代は実質無料に。30代も同社と市が一部負担し、実質3160円で利用できる。結婚相談所は同社が入会金を無料とし、月会費も市が最大2カ月分補助する。いずれも利用後に対象者に市が還付する。来年3月末まで。(Yahoo! ニュース2023年11月17日配信産経新聞記事「マッチングアプリの利用補助、姫路市がリクルートと連携」より)
私の違和感の理由は2つあります。
1つめは、これは税を用いて行われるということ。税であるからには、公平性が確保されなければなりませんし、特定の層に便益が偏り、それ以外の層にはメリットがないのであれば、税を支出する理由とはなりにくいでしょう。少子化対策のために、若年層にターゲットを絞る、これはまだわかります。なぜなら高齢者のみが利用できる様々なサービスがすでに実在し、税によって賄われているわけですから、若年層を対象とした政策があるのも理解できます。
ではなぜその補助というのが、リクルートという一企業が運営するゼクシィのサービスを使った時に限られるのでしょうか。
まさかこれつながりでしょうか。
森まさこ首相補佐官(女性活躍担当)がSNSに、「ブライダル補助金」事業の成果を書き込んだことの反響が続いている。ブライダル大手から100万円の献金を受けていたことも発覚し、ネットの炎上は収まる気配はない。森氏自身はお盆休みなのか反応していないが、著名人らが疑問・批判の声を上げている。(zakzak2023年8月18日配信記事「献金ゲット「ブライダルまさこ」に批判の嵐 森まさこ首相補佐官の政策「前代未聞のアホな制度」「カネ絡むと不味いよ」」より)
この報道とは無関係にしても、世の中には他にも多くのマッチングアプリや結婚相談所が存在し、これらを使っている(使おうとしている)者は補助を受けられず、リクルートが運営するサービスへ入会すれば補助を受けられるというのは公平ではないでしょう。結局リクルートが多くのユーザーを獲得し、国民が納付した税がリクルートへ流れ込む結果になるだろうなということは簡単に想像できます。(これに限らず、企業献金はこうした狙いがあるのでしょうか。賢い。)その一方で、他の結婚支援サービスを運営する企業は当然ながら加入者が減少するわけですから、結果的に姫路市は自由競争が本来であるはずの市場を、税を原資とする政策を通じて歪めていく活動を行っていることになります。・・・ということを、市役所の人は誰も指摘しなかったのでしょうか?
2つめに、マッチングアプリを使ったからといって結婚が増えるというわけではありません。その証拠に、Yahoo! ニュース2022年8月19日配信記事「ネット婚活サービス市場規模が激増しているのに、婚姻数は増えるどころか減少し続けているという謎」にも指摘されているとおり、毎年婚姻数は減少し続けています。
マッチングアプリというのは結局のところ「ひと握りの人気会員が多数の異性からの支持を獲得する一方で、それ以外の人はさっぱり」という世界であることに注意が必要です。さらには年収や身長、学歴などの数字で表現できるデータ(スペック)を比較したりされたりする場でしかなく、もっぱら女性があれこれ他の男と比べては「こいつは違う、こいつもだめ」、ということが常態化しています。そして男性は常に選ばれる(弱い)立場であり、この前提条件は完全に固定化していて個人の努力では覆すことは不可能です。
さらに言うなら、無視・嘘・ブロック・ドタキャンが横行しており、見知らぬ他人同士ならこんなことを平気でするのかという環境であり、いわば「無礼のデパート」。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のカンダタをご存知でしょう。自分ばかりが得をしようとする、あの男。マッチングアプリを使っていると、カンダタとは私たち以外の何者でもないと痛感します。(これくらいのことは、マッチングアプリを使ってしばらくすると誰でも気付きます。)
・・・そんなものの利用に税を投入するくらいなら、若年層が安心して働ける職場を増やすために産業振興にもっと力を入れたほうがいいと思います。収入が増えれば、デートに出かけやすくもなるでしょう。私は姫路市の有権者でもなんでもないので、正直この自治体がどうなっても知らんけど・・・。
追記:マッチングアプリは普通、女性は無料ですが男性は有料です。
蛇足:婚活の定義 → 高収入の男性をゲットする活動のこと。この語が造られた本来の主旨から考え、この定義は誤りですが現実はそうなっています。詳細は作家・橘玲氏や中央大学教授・山田昌弘氏の著作などをお読みいただきたいのですが、女性活躍が叫ばれる令和でも、自分より収入が少ない男性と結婚する女性はほとんどいません。女性が期待する男性配偶者像は、きわめて保守的です。自民党幹部が保守的な発言をするとバッシングされますが、結婚したいと願う女性の振る舞いもまた無自覚のうちに保守的なのです。
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