人にはそれぞれ固有の声というものがあります。Aさんの声はAさんのもの。Bさんの声はBさんのもの。聞けばわかります。これに人それぞれ喋り方が異なっていますから、Aさんの声をBさんだと間違える人はいません。

さらに声を使った音楽=歌となれば、持って生まれた声帯によって歌手に向いている星の下に生まれたという人だっています。
後にGLAYとしてメジャーデビューすることになる少年時代のTAKUROさんとともに、級友のTERUさんは当時ドラムを叩いていました。このバンドではボーカルがまったく見つからず、困っていたそうです。ところがあるときボーカル抜きのデモテープに後から歌詞をつけてみた、とTERUさんはカセットをTAKUROさんに聴かせます。あまりに特徴的な声に驚いて、「なんだ、ボーカルは目の前にいたじゃないか」とTAKUROさんは拍子抜けしたとか・・・。つまりそれだけボーカリストとしての才能が明らかだったというわけですね。

歌手として相当の実績を積まなければ指名されないのが、公の場での国歌独唱。何しろ場合によっては大統領とか国王とかの前で国歌を歌わなければなりませんし、当たり前ながら生中継だってされます。ここで歌詞を飛ばしてしまったら切腹ものです。

さて国歌といえば有名なのがこれ。映画のワンシーンにもなりました。



映画ではこうなっています。


(こちらもホイットニー・ヒューストン本人の音声を当てているようです。)

湾岸戦争開戦から10日。この状況のもと、おそらくペルシャ湾に展開する米国軍人たちも中継を見ていたのではないでしょうか。1億人以上がこの放送を見ていたとされており、失敗は許されない状況のもとで伝説的ともいえる歌唱を披露しました。

耳を傾けてみると、たしかに私が昔から想像する「アメリカ」らしさに満ちあふれています。
とくに、
"O say does that star-spangled banner yet wave
O’er the land of the free and the home of the brave?"
に差し掛かったときのの伸ばし方は唯一無二といえるもの。私はここだけ何度リピートしたか・・・。

それともうひとつ、こちらは別に有名でもなんでもありませんが、ニュージーランドらしい雰囲気が出ている国歌独唱。歌を披露しているのはヘイリー・ウェステンラはニュージーランドのクライストチャーチ出身。かつてフジテレビのドラマ『白い巨塔』の主題歌「アメイジング・グレイス」を歌っていました(私は来日公演を3度聴きました)。



ヘイリーの何がニュージーランドらしいの? と思った方はニュージーランドの白ワインを飲んでみてください。赤じゃなくて白です。そうすれば私の言いたいことがたぶんわかるはず・・・。

以上の二人は、まったく声質が異なっていますが、それぞれの国らしさがよく表れていると思います。


ヴァイオリニストのトーンとは

かつてミッシャ・エルマンというヴァイオリニストがいました。といってもキャリアのピークは戦前であり、鈴木鎮一が彼のレコードを聴いて感銘を受けたというエピソードが残っているくらいですから、今では彼の名を知る人も少ないでしょう。にもかかわらず、私のような一部の物好きがCDをせっせと買い求める熱心なファンもいまだに実在します。彼の特徴は「エルマン・トーン」と呼ばれた古風で甘い音です。彼がもしコンクールを受けたら、技術的な甘さから入選することはないでしょう。しかし彼の「音」は圧倒的な個性が感じられます。

この他にもハイフェッツの音、グリュミオーの音、クレーメルの音、ヤンセンの音・・・、のように一流の奏者には音に個性があります。卓越した技術を持っているにこしたことはありませんが、それだけでは不十分であり、「その人のトーン」があってこそ一流のヴァイオリニストと称せられるのでしょう。

逆に、私がそう思っているからなのか、〇〇コンクールで1位になって云々、という宣伝文句のヴァイオリニストの演奏はその時は「うまいな」とは思うものの、1、2日するとどんな演奏だったのかすぐに忘れてしまいます。「ブログのネタに、コンサートの感想を書いてみよう」と思ってホールに向かっても、帰り道に「うーん、書きたいことは何もないや」と思いながら駅まで歩くことも・・・。
そういう体験が1度ならたまたまかもしれません。でも2回、3回と同じことが起こると、もうそのヴァイオリニストのリサイタルに行く気が起きなくなってしまいます。近所のホールならまあ行ってもいいですが、第一生命ホールとか浜離宮朝日ホールとか(どっちも私の家からは不便な場所です)になると「行くまい」と思ってしまうのでした。

ただ・・・。技術的な面は繰り返し練習すればクリアできるものの、「その人のトーン」というのはどうやったら獲得できるのか・・・、私にはいまいち見当がつきません。少なくともモーツァルトを弾いていて「チャイコフスキーみたいな弾き方するなコラ」とか教師に怒られる私には「俺トーン」なんて無理ゲーな気がします。いや無理ゲー確定でしょうね。