戦前から続いている、日本で最も有名であろう音楽コンクール「日本音楽コンクール」は今年(2023年)が第92回。まもなく100回目が視界に入ってきそうです。このヴァイオリン部門本選会を聴きに東京オペラシティまで出かけました。本選ともなればオーケストラとの共演となり、バックで数十人が演奏している、その前面に立ってソロを務めなければなりませんからそのプレッシャーたるや相当なもの。私には到底ムリです。
今回の出場者および演奏曲は以下のとおり。
10月29日(日)に開催する第92回日本音楽コンクール・バイオリン部門本選会の出場者と演奏曲目は下記のとおりです。(出場順、敬称略)
(1) 水野琴音
チャイコフスキー:バイオリン協奏曲ニ長調 作品35
(2) 荻原緋奈乃
チャイコフスキー:バイオリン協奏曲ニ長調 作品35
― 休憩 ―
(3) 小西真璃花
シベリウス:バイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
(4) 中嶋美月
パガニーニ:バイオリン協奏曲第1番 ニ長調 作品6
共演:高関健指揮、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団(コンクール公式HPより)
ハイレベルな競争に目をみはる
100m走は「決まった距離をいかに速く走るか」。砲丸投げは「重量物をどこまで遠くへ投げられるか」。このように明快に数字で結果を表現できればこんな楽な話はありません(走ったり投げたりする方はちっとも楽ではありませんが)。音楽の場合、採点という評価方法が馴染むかどうかは別として、音楽コンクールという場が設定され、優秀な成績を獲得することが将来につながる限られた道だとするなら、いかに険しくてもプロを志すなら立ち向かっていかなければならないもの。大事なことなのでもう一度言いますが私には到底ムリです。ともあれ私の感想は以下のとおり。
水野琴音さんのチャイコフスキーはしっとりとした味わい。この協奏曲はどちらかというと荒ぶるような演奏が多いなか、落ち着いた歩みのなかで一つ一つ確かめるように確実に音を出すというもの。NHKの報道によると、先月も青森市民交響楽団の定期演奏会に出演し、やはりチャイコフスキーのこの曲を演奏していたようです。ということは十八番なのでしょうか。この連想が適切かどうかちょっと自信がありませんが、若き日の美智子様のテニスのプレースタイルは打っても打っても冷静に打ち返してくるというもの。これで皇太子様(当時)は軽井沢のトーナメントで負けてしまいました。私はこの日のチャイコフスキーを聴いてついこのエピソードを連想しました。
荻原緋奈乃さんもチャイコフスキーを選択。先程とは対照的に外へ、前へと進んでいくような推進力があります。私がもつこの曲のイメージはこちら。調べてみたところ萩原さんはまだ高校在学中らしく、その若さが演奏にも現れたのでしょうか。これも私の連想ながら、往年の指揮者シャルル・ミュンシュのスタイルをふと思い出しました。彼の指揮した『第九』はLP時代に「最速の」という枕詞で語られていました。卓越した技術集団であるボストン交響楽団を率いて短距離走のスピードで(62分ほど)『第九』を演奏しています。彼女の演奏にふたたび接する機会があれば、ショーソンの「詩曲」などしっとりした作品に接してみたいと思いました。
小西真璃花さん。シベリウスはチャイコフスキーとはうって変わって神秘的な場面が多い作品となっています。ブルーのドレスは彼女がもつこの曲のイメージを反映したものでしょうか。実際にこの曲を通して聴いてみると神秘的だったり、デモーニッシュだったり、様々な性格の場面が連なっています。桐朋女子高音楽科に在学中とのこと、まだ高校生なのに優美な表現が一貫し、確かな技術力を伺わせます。私が高校生のときは・・・、スーファミで遊んでいました。
中嶋美月さんはパガニーニを選曲。技術的にも、この曲の長さから言っても最も過酷だったのではないでしょうか。重音奏法があったり音が跳躍したり上がったり下がったりが40分近く続きます。これをコンサートホールで演奏するからには確かな技術力が前提となります(当たり前か)。しかし中嶋さんは破綻なく弾ききりました。第2楽章のアリア風の場面も情感たっぷり。ここまで上手いのであればむしろ、超絶技巧を要求しているわけではないが逆に難しいモーツァルトを中心にしたリサイタルを聴いてみたいという好奇心にかられます。
やはり毎年「俊英」といって間違いない人材が競り合う催しなだけに、聴く方も大変なものの行ったら行ったで勉強になりますし、今の学生というのはこれほど上手いのかという発見に満ちています。本日の演奏に心より敬意を表しつつ、また、彼女たちの今後のますますの活躍を願ってやみません。
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