ヴァイオリン曲というのは山のようにあります。タルティーニとかヴィヴァルディとかヴィオッティは膨大な量のヴァイオリン曲を残しました。それで現代においても聴かれている曲は一体いくつあるか・・・、なんて考えるのは野暮というもの。ピカソだって作品点数は14万を超えています。でも本当に傑作だとみなされているものはわずか。手塚治虫先生だって有名作は『火の鳥』とか『ブラックジャック』とか、一握り。それこそ1000曲を軽く超えているAKBの曲も、名曲は「ラブラドール・レトリバー」とか「11月のアンクレット」など数曲でしょう。
数多くあるヴァイオリン曲といっても、例えば協奏曲とかソナタにはどのようなものがあるのか? なかなか悩みどころです。クラシックを学生時代から愛好している人なら、いちいち人から教わらなくてもブラームスの『交響曲第4番』が優れているとか、ブルッフは『スコットランド幻想曲』が素晴らしいとか、自分で本を読んだりCDを聴いたりして開拓していきます。ちなみにブルッフなら「アダージョ・アパッショナート」という10分くらいの長さの曲も知られざる名曲です。
残念ながら音楽大学を卒業してヴァイオリン教師になる人は必ずしもそこまで曲を沢山知らないらしく、私が静岡県にいたときに教わった先生はベートーヴェンの『運命』とか『田園』をマジで聴いたことがありませんでした。でもそれってヴァイオリン教師あるあるだと知って二度びっくり。
というわけで名曲は数あれど、自力で知る努力をしなければならないもの。ただこれを「努力」のようなネガティブなニュアンスが混じってしまうものだと受け止めてしまうようですと、たぶんヴァイオリン、というかクラシックというジャンルに向いていない気がします。タワレコとかディスクユニオンに通って謎のCDを発見して喜ぶくらいでちょうどよいでしょう。
知識量を開拓するためにおすすめしたいのが渡辺和彦さんの『ヴァイオリン/チェロの名曲名演奏』という本です。これは1994年刊行でおよそ30年前の本で、当時まだ五嶋みどりさんは若手といった立ち位置の時代でした。それでも、この本で推薦CDとして紹介されている演奏家もグリュミオーやハイフェッツなど、直球ど真ん中の名演奏家。言うまでもなく、そもそもバッハやモーツァルトを論じる本ですから30年なんて誤差の範囲内。
この本はバロックから始まって、最後はショスタコーヴィチやヒンデミット、ブリテンなどが登場します。彼らの作品が最近は少しずつコンサートのプログラムに組み込まれることが増えてきたことに触れ、渡辺さんは新しい時代に期待を寄せています。繰り返しますが、これは30年ほど前の著作であり、しかし「クラシック」というものを前にするとその長い年月といえども可愛いものでしょう。何しろ2023年の今もよく演奏されるヴァイオリン協奏曲なんて90年代とどうせ大して違いなんかありませんから。だって、ベルクとかストラヴィンスキーの『ヴァイオリン協奏曲』なんて、30年前も今も何千円も金払ってまで聴いてみたい人なんてほとんどいませんもの・・・。私もCDならまあいいけど、わざわざそんなもんのために片道1時間かけてサントリーホールに行こうなんて思いません。1時間あれば10kmランニングできちゃいますよ・・・。それと30年前も今も物価が日本だけあまり変わってないのが悲しいですね。
ありがたいことに、『ヴァイオリン/チェロの名曲名演奏』はアマゾンなら中古商品がせいぜい100円台+送料で購入できます。協奏曲がかなりのスペースを占め、ソナタがちょっと少なく、小品はもっと少ないのが玉に瑕とはいえ、小品はそれこそ自分の知ってるヴァイオリニストが弾いてたやつを真似するくらいで大体ちょうどいい(私がこのブログで紹介した小品はほぼそうです)ので、この本を参考までに1冊持っておいても損はないでしょうし、次の30年も十分現役で使える内容だと思います。
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