2023年現在、東京バレエ団のゲスト・プリンシパルとしてまだまだ活躍が期待されるバレエダンサー上野水香さん。彼女の軌跡をまとめた漫画『Mizuka バレリーナ 上野水香ものがたり』をやっとこさ手に入れました。「あ、こういうのもあるのか、よし買おう」と発売直前に本の存在を知りつつも、その後ついうっかり記憶の舞台袖にどういうわけか引っ込んでしまい、ようやく入手しました。
というわけで手にしてみると、そこに描かれていたのは・・・。
『Mizuka バレリーナ 上野水香ものがたり』で上野水香さんの半生を手っ取り早く理解
東京バレエ団のHPには上野水香さんの経歴がこのように書かれています。
5歳よりバレエを始める。1989年埼玉全国舞踊コンクール、ジュニアの部第1位。1993年、15歳でローザンヌ国際バレエコンクールにてスカラシップ賞を受賞した後、モナコのプリンセス・グレース・アカデミーに2年間留学。帰国後、古典全幕作品やローラン・プティ作品に主演した。2004年、東京バレエ団に入団した。
この他にレパートリーはこれこれ、受賞歴はこれこれ・・・、といろいろ書かれていますが、事実関係を網羅してくれているのはありがたいものの、日本を代表するバレエダンサーのことを知ろうと思ったときにこの情報から「あのとききっとこういう苦難があっただろう」という情景を想像することは難しいでしょう。その点、漫画で彼女の半生を追体験できるのは大変貴重です。
ただこの本はバレエ雑誌『クララ』に掲載されている漫画(4話)に加え描き下ろしの1話を追加したもの。『クララ』はバレエを学んでいる学生(小中学生くらい?)をターゲットにしているらしく、したがって漫画の中の台詞も「こうして水香(みずか)は あこがれの ローザンヌへ向(む)けて 歩(あゆ)み出(だ)したのです」のようにすべての漢字にふりがなが振られています。大人が読むと逆に邪魔かもしれませんがそもそも私みたいな昭和生まれの男が読むことを作者も絶対想定していないでしょう。
この作品を読むと、若き日の上野水香さんがコンクールのいわば「勝利至上主義」のような雰囲気に馴染むことができず、あるときジュニアの部で1位を獲得した後はコンクールから遠ざかっていたことなどが描かれており、バレエコンクールというものが当時の日本において「お受験」のような、いわば親の代理戦争だったのではないかということが想像されます。
15歳の時にローザンヌ国際バレエコンクールに挑んだ際には、日本の舞台とは異なり、傾斜がついた「八百屋」であることを知らず、自分のコンディションが悪いからだと思ってしまったというエピソードにもリアリティがあります。
その後、このコンクールをきっかけにモナコへ留学、2年間の研鑽期間を終えて帰国後は牧阿佐美バレヱ団に採用されるもコール・ド・バレエの一員であることに馴染めず悩みの時期を過ごすもプティにその才能を見出されます。そして東京バレエ団に移籍後は憧れであったベジャールの「ボレロ」を踊ることになり、しかし本番で大きなミス。その失敗は彼女のトラウマとして残り続けるも、そこから10年以上経過したある年の雨の日の横浜での屋外公演での「ボレロ」が会心の出来栄えであったことからついにこれを克服・・・、バレエを通じて様々な人びととの繋がりを実感し、さらに次の未来を切り開こうとするところでこの漫画は結ばれています。
たしかに上野水香さんといえば「ボレロ」であり、この漫画は「ボレロ」で始まり「ボレロ」で終わっています(上手くまとまっています)。全体として190ページ程度で、大人が読めば1時間もかからないでしょう。プロは結果がすべてですから、何も彼女の半生を理解していなくても踊りを鑑賞することは可能ですし問題ないはずです。そうは言ってもやはりこれまでの苦労や歩みを知っておくと、「なぜ今この作品を踊るのか」といったことを推理する楽しみも加わるはず。バレエに関心がある方、とにかくいろんな本を読んで知識を充実させたい方は買っておいて損はないでしょう。
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