日本で最も売れた少女漫画は何でしょうか。うーん、『ベルばら』? 違いました。『けいおん!』? これも違いました。そもそも少女漫画じゃないし。正解は神尾葉子先生の『花より男子』で紙媒体だけで6100万部を売っています。30巻を超える長いお話ですが、平均して200万部売れていることになります。
平成時代のベストセラーの一つ『金持ち父さん貧乏父さん』が200万部ちょっと売れていますから、これくらいのベストセラーを30回連続したくらいの数字になります。漫画の影響力ってすげーな。
『花より男子』のあらすじをものすごく短くまとめると、普通の女子高生・・・、いや父親の経済力から言うと中の下くらいの女子高生である牧野つくしが、F4と呼ばれる4人のイケメンといろんな関係を結びながら、最終的には世界経済に大きな影響力をもつ道明寺財閥の息子・道明寺司と結ばれるというお話です。
今思うと、日本の一企業が世界経済を左右するというのはバブル時代の名残であり、これも「当時はそういう時代だった」という証言の一つとして価値があるでしょう。
しかし今も昔も(昔と言ってもせいぜい30年前だが)変わらないのは、「普通の女性=私のところに白馬の王子様が現れる」という、現実と著しく乖離した願望です。『花より男子』がヒットしたのは、そういう女性の妄想(妄想と言っても差し支えないでしょう)を美しい形で描ききったからなのでしょう。言い換えるとこれはあくまでも漫画、フィクションであり、そんなことは実際には起こらないと理解していなければなりません。
ところが。
別に『花より男子』のせいでもなんでもないのですが(この作品は女性のそういう願望を実体化しただけである)、女性にはF4のような男性を求める「上昇婚」という強いバイアスがあるのでした。
一般に、日本社会では「釣り合い婚」あるいは女性の上昇婚が標準的とみなされてきました。上昇婚とは、学歴や年収、家柄などいわゆる「スペック」が女性である自分よりも優位な男性と結婚することを言います。ところが戦後数十年にわたって女性の社会進出が進めば進むほど、つまり大学を卒業することや、総合職として働くということが当たり前になってくると、自分よりも学歴や年収などで格上の男性は限られてきますから、女性の社会進出は未婚化を招くことになります。
この上昇婚という考え方にほとんど変化が見られないことが婚姻数現象に歯止めがかからないことの要因の一つであることはいちいち調べるまでもないでしょう(この話は過去記事でも何度か書いたはずなので繰り返しません)。・・・もしかすると日本女性というのは男性が想像する以上に・・・、見かけでは分からなくてももしかすると自民党以上に・・・、保守的なのかもしれません。
上昇婚を望む女性。日本だけじゃなくて海外もそうだった
だから私は「ケッ、女なんてそんなものさ」と言いたいわけではありません。じつは上昇婚を求める傾向は日本だけではありませんでした。
洋の東西を問わず、女性には強いハイパーガミー(上昇婚)の傾向があることが知られている。アメリカでは、女性は男性の約2倍、相手に経済的な余裕があることを重視している。(中略)欧米の婚活サイトのデータを分析すると、女性が自分より高い学歴の男性を好む傾向がはっきりわかる。女性が修士号をもつ男性のプロフィールに「いいね!」を押す割合は、学士号の男性より91%(約2倍)も多いのだ。ここで問題なのは、アメリカでは1990年代以降、大学進学率と大学修了率の両方で女性が男性を上回っていることだ。(中略)女性の社会的地位がこれまで低かったことを思えば素晴らしいことだが、ハイパーガミーの傾向と組み合わせると事態は不穏な様相を帯びることになる。女性が社会的・経済的に成功すればするほど、(自分よりも「上位」の男性が少なくなるので)選択できる相手が少なくなるのだ。事態を困難にするのは、「仕事で成功している女性ほど、成功している男性を強く好む」ことだ。この傾向はアメリカだけでなく、イギリス、スペイン、セルビア、ヨルダンなどでも確認されており、宗教や文化に関係なく世界じゅうで広く見られる。(講談社現代新書 橘玲『裏道を行け ディストピア社会をHACKする』より)
この本によると、婚活サイトのビッグデータの分析では魅力度が下位80%の男性は下位22%の女性を奪い合い、上位78%の女性は上位20%の男性に集まっていたことが指摘され、要するに「富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しくなる」という聖書の言葉どおりであり、別の表現をするなら一部の富裕層が莫大な富を手中に収めるという近年のアメリカのようになっているというわけです。
私は橘玲氏の本を読んだときに、そうか上昇婚を好む傾向があるのは日本女性だけじゃなくて全員そうなんだ、と目から鱗が落ちる思いがしました。
だから私は「日本は少子高齢化まっしぐら、少子化対策すでに敗北、これからもっと日本は活力のない貧しい社会になっていくだろう・・・」、というありきたりな結論に持っていきたいわけではありません。そうなるのは目に見えていますが。
ただ戦後の高度経済成長期までのように、男女ともに結婚できていた社会もまた異常だったのではないでしょうか。むしろ、社会からの有形無形のプレッシャーに屈し、心ならずも不本意な結婚を強いられた女性が一定数いたことが想像されます。そのように配偶者を「与えられてしまう」のは果たして幸福なのでしょうか。いやそもそも個人が自分の幸福を追求すればするほどミーイズムが推し進められることになり、社会の維持にとってはむしろマイナスなのではないか・・・とも私は疑っています。
日本一国でみると人口減少は急激ですが、ある意味この小さな島国に1億を越す人間が暮らしていることもまた不自然であり、短期的には「少子化対策すでに敗北」に見えるトレンドであっても、長期的に見れば妥当な水準へ向けて収斂しつつあるのかもしれません。
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