ビジネスで成功した社長さんが美術品とか骨董品を買いたがるのは理由があったりします。

実際には「よっしゃワイ、ビジネスで成功して上級国民になったからピカソでも買ったるわホレ」とか思ってたりするのかもしれません。何しろビジネスで成功する人ってアホが多いって聞きますから。アホだから失敗したときの痛みを考えない。だから全力疾走できる。そのうちの一握りが成功する。成功した人は、運を実力と勘違いして成功体験を本にしてドヤ顔を決めこむ。それって生存バイアス(失敗した対象を見ずに、成功した(≒生存した)対象のみを基準に判断をしてしまうこと)って言うんですけどね。失敗した人には誰も見向きをしないので、「そうか、アホだから成功できるんだ! もう勉強しなくていいんだ!」なんていう勘違いが、彼を崇拝する若い人に巡っていくのです・・・。

以上の話は特定の誰かを想定しているわけではなく、あくまでも「そんなことがあるかもね」という体で書いています。

話を戻すと、社長さんが美術品とか骨董品を買いたがるのはアホだからという理由の他に、資産としての価値があるから、という面もあります。

会計の世界では減価償却という考え方があります。世の中の 多くのものは時間の経過とともに価値が減っていきます。例えば、食べ物が腐ったり、機械が古ぼけて故障しやすくなります。
これを、会計の世界では減価と呼んでいます。この原価を会計的にも反映させる仕組みのことを「減価償却」と呼んでおり、たとえばパソコンなら4年、車なら8年にわたって減価させていきます。

しかし、世の中には減価しないものもあります。例えば、土地や美術品や株式などは時間の経過とともに価値が減っていくというわけではないですよね。株式は買った後に価値が上がる場合もあります。

ゴッホの作品もそうですよね。ゴッホが生きている間は彼の作品を評価する人は誰もいませんでした。しかし彼が死んでから評価が高まり、今ではオークションで何億円という価格が付けられることもあります。バブル時代の日本で美術品が大量に購入されていたのはそういう事情があったからです。減価しないのであれば、それだけでレア感があり、レアだからみんなが欲しがる(取引価格が釣り上がる)わけです。

逆に言うと、美術品や骨董品の類を減価償却するととんでもないことに・・・。

 カレーチェーン「CoCo壱番屋」の創業者・宗次(むねつぐ)徳二氏(70)が取締役を務める同氏の資産管理会社「ベストライフ」(名古屋市)が昨年、名古屋国税局の税務調査を受け、約20億円の申告の誤りを指摘されたことが分かった。2016年に所有するバイオリンの名器「ストラディバリウス」「グァルネリ」など、本来は減価償却できない楽器を経費として処理したと指摘された。

 過少申告加算税を含む追徴税額は約5億円。同社は修正申告し、全額を納付した。宗次氏は取材に「知識不足による税務処理のミスだった」と説明した。
 宗次氏は1978年、愛知県内でカレーの1号店をオープン。一代で全国有数のチェーンに育てた。2002年に引退後は音楽の普及に力を入れ、私財で名古屋・栄に「宗次ホール」を建設。現在、ストラディバリウスのバイオリンやチェロ計6丁を含む約30丁の楽器を国内外の有望な音楽家に無償で貸与している。
 宗次氏の説明や関係者によると、これらの宗次氏が所有していた楽器は16年までに、同氏らがお金を貸して、資産管理会社が購入。管理会社は同年、楽器の資産価値の目減り分を耐用年数に応じて計上する減価償却費として経費に計上して処理した。
 これに対し、国税局は、業務に使う一般の楽器は減価償却が認められているが、宗次氏の楽器の中には制作から何百年も過ぎたものもあり、希少価値がある骨董(こっとう)などの美術品と同じで、年数が経っても価値が下がらないと指摘。いずれの楽器も減価償却の資産にならないとして、約20億円の申告の誤りを指摘した。

(朝日新聞2019年6月6日記事「20億円、申告を誤る ココイチ創業者の会社 減価償却できぬ高額楽器、経費処理」より)
気になるのが、「楽器の資産価値の目減り分を耐用年数に応じて計上する減価償却費として経費に計上して処理」とある点です。ストラディヴァリウスが制作されてから軽く300年は経過していますが、21世紀になった今なお当たり前のように演奏に使われています。一体耐用年数を何年だと評価したのでしょうか。500年・・・? 

さらには骨董品や美術品は減価償却しないというのは会計の素人である私も知っている話です。この記事を読み進めると「「自身の資産管理会社が巨額の申告の誤りを指摘された宗次氏は5日、朝日新聞の取材に「税の申告はすべて税理士に任せていたが、私自身も考えが甘かった」と答えた」とも書かれていますが、税理士も納税の手続をしているときに「おかしいな」と思わなかったのでしょうか。

というわけで、社長さんが美術品を買うのはいいですが、その後の会計処理を適切に実施できないと国税局から痛い目にあわされるようです。辛すぎる・・・。


注:美術品なら何でもかんでも減価償却しなくてOK、というわけではありません。詳細は国税局HPなどをご参照ください。