「数字をごまかすと国がつぶれる」。元東京都知事・猪瀬直樹さんがいつかそのようにおっしゃっていました。猪瀬直樹さんは『昭和16年夏の敗戦 』という著作において「総力戦研究所」の軌跡をたどります。ここに集められた各界の若きエリートたちは、模擬内閣を結成し、机上演習を行いました。その結果は、米英と開戦となれば最後はソ連が参戦し、日本は必敗するというもの。太平洋戦争開戦前に、若手官僚たちは日本の敗戦を予言していました。ところが彼らが出した結論は、「戦争はやってみなければわからない。日露戦争も予想外のことが起こって勝った」という東條英機の発言に見られるような意見に潰されてしまい、やがて真珠湾攻撃の日を迎えることになります。

冷静に「数字」を見つめていれば、無理なものは無理だとわかるはず。ところが非論理的な意思決定によって日本は破滅への道を突き進むことになったのでした。なお、猪瀬直樹さんも自身の政治資金という数字を誤魔化して失脚することになったのは皮肉なものです。

「数字」とは逆に、「言葉」というものはその人がそう言っているだけで、別に真実でもなんでもないということは過去のブログ記事で指摘したとおりです。たとえば、

私は以前大学入試の仕事をしていたことがありました。AOや推薦入試で「核兵器廃絶のために努力したい」「貧困の連鎖を食い止めたい」などと、課題の小論文で地球規模の悩みを吐露する受験生の多いこと多いこと。でも、入学したら学食でカップ麺をすすりながら「おすすめのアニメおしえて」。おい。

採用の仕事をしたこともあります。「御社に合格した暁には、〇〇の業務に邁進して云々」とやる気満々の応募者。しかしこいつは内定した途端、給料と休みのことばかり質問してきたのです。

「言葉」というのは、これほどまでに信用ならないもの。数字はそうじゃないだろう、これをごまかすと国が潰れるんだ・・・。

浅はかでした。数字もやっぱり信用なりません。


はっきりしない数字

はっきりしない数字というのは私も色々見たり聞いたりしています。最近では「日本にもLGBTはこんなにいるんだ」という話をよく聞きます。
2015年電通総研ダイバーシティ・ラボによると、現在、日本にはLGBTが約13人に1人いるとされています。これは、日本の六大名字である、佐藤・鈴木・高橋・田中・渡辺・伊藤さんを合わせた数より多いんです。にもかかわらず、高校生の約9割がLGBTについて学ぶ機会がないという現状があります。

(早稲田ウィークリー「日本人の13人に1人はLGBT 実はとても身近にいる、大切な人との付き合い方」より)
「日本にはLGBTが約13人に1人いる」。本当だろうか。なんだか私の生活実感とものすごくかけ離れているな・・・。本当かな・・・。おかしいな、と思ってもう一度読んだら「日本にはLGBTが約13人に1人いると”されています”」。「いる(断言)」ではなく「いるとされている」。そうですか・・・。

別の調査では、
「国立社会保障・人口問題研究所」の研究グループが大阪市の協力を得て行った調査。今年1月、無作為に抽出した大阪市内の18歳から59歳、1万5000人にアンケートを送り、4285人から回答があった(有効回収率28.6%)。

調査では性自認や性的指向(性愛感情を抱く相手の性別)を質問。

性的指向では「異性愛者」「同性愛者(ゲイ・レズビアン)」「両性愛者(バイセクシュアル)」のほかに、誰に対しても性愛感情を抱かない「無性愛者(アセクシュアル)」と「決めなくない・決めていない」「質問の意味がわからない」という選択肢も設けた。

この結果、「ゲイ・レズビアン・同性愛者」は0.7%、「バイセクシュアル・両性愛者」は1.4%、「アセクシュアル・無性愛者」と回答したのは0.8%だった。「異性愛者」は83.2%で、「決めたくない・決めていない」も5.2%に上った。

(ハフポスト「LGBTQの割合「13人に1人」ではなかった 「3%」という”下方修正”をどう見るべきか、研究者に聞いた」より)
えらくばらつきがありますね。結局どれが正しい数値なのでしょうか。国勢調査のような大々的な調査ではなく、アンケートという「答えたいと思った人だけが答える」という回答方法を数値の根拠とするのは私としては違和感があります。

(注:以上は、「結局どれが実態を正確に反映した数字だろうか? まさか数字がひとり歩きしていないか?」という疑問を呈しているのであり、各個人の性自認等についての価値判断を行っているものではありません。)

この他にも、『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い~禁じられた数字(下)』によると、

1.作られた数字
2.関係のない数字
3.根拠のない数字
4.机上の数字
があるそうです。

1.の作られた数字は例えば「ハワイが人気です」と言いたいがために「パリ、ロンドン、ローマ、ハワイ」のうち、行きたい旅先はどこか、と尋ねるもの。でもよく見るとパリ、ロンドン、ローマは大都会であり、リゾート地はハワイだけ。都市の魅力を堪能したい人はパリ、ロンドン、ローマにばらけるのでハワイが有利になります。それでわざとハワイを1位にしてしまうというやり方。

2.の関係のない数字は、「構想7年、ついに映画化」が例として挙げられていました。一瞬そうか、構想だけで7年なのか。きっと全米の9割が号泣する大作だろうと思いますが、構想7年はただのアイデアレベルの話なので、無駄に7年も考え続けただけの可能性もあり、面白さを保証するわけではありませんね。

3.根拠のない数字。これは私もやられました。「AKB総選挙の経済効果は〇〇億円!」なんていう話、私も総選挙のために否渡辺麻友さんを応援するためだけに福岡と新潟に行った私としては「フヘヘ、オタクワイわが国の経済成長に貢献」とか思っていました。でも経済効果なんて分析する人によって含める範囲がまるで違いますからガバガバ数字です。それに、AKB総選挙の経済効果には「福岡に行こうと思っていたが、総選挙でホテルが取れないから行くのやめた」のようなマイナス効果もあるはずですが、経済効果から引き算されません。となると本当の経済効果はいくらだったのでしょうか。私が買ったシングルCD「僕たちは戦わない」くらいは経済効果に含めていいと思いますが・・・。もしかしたら生産や輸送に関する環境負荷のせいで経済効果は実はマイナスだったかもしれません。でもなんというか、心意気というか、私が買ったCDは経済成長に貢献したって思ってるわけですから、これはもう経済効果に含めていいんじゃないでしょうか。

4.机上の数字。中小企業の7割が赤字と言いますが、黒字なのにわざと赤字にして税負担から逃れようとしたり、本当に赤字だと言ったら銀行から融資を止められてしまうので黒字に粉飾したりということはザラにあります。つまり7割赤字といっても実態はどうなのか、まったく分かりません。

・・・と、一見本当らしく見える「数字」であってもそのまま鵜呑みにはできません。当たり前の話なのでしょうけれど、『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い~禁じられた数字(下)』を読んでみると改めてそのことを思い知らされました。