日本の住宅環境でヴァイオリンを弾いていると気になるのが騒音問題です。子供のころから技術を叩き込まれて、今ではバッハ、イザイ、パガニーニ思いのままなんていう人は日本広しといえどもひと握り。大半のヴァイオリン弾きはヨタヨタと「タイスの瞑想曲」とか「愛の挨拶」らしきものを練習するというのが実情ではないでしょうか。
私自身もベリオの「バレエの情景」という曲に取り組んでおり、そうか自分もとうとうここまで来たかと感慨深いものがありました。
たぶんこの曲の延長線上に「序奏とロンド・カプリチオーソ」があるんだろうな、ワイなかなかやるなと思っていました。でも「バレエの情景」は小学生がコンクールで弾きがちな曲だと知って愕然となりました。ワイは小学生に負けた!! でも藝大の入試問題から逆算すると小学生でこれができてないと厳しいですよね・・・。
集合住宅でチマチマと練習している私ですが、ある時「ミュートを使っていると楽器が鳴らなくなる」という話を聞きました。え、本当? でも集合住宅だったらミュートが無いと練習できなくないですか・・・。できても大家さんから「出ていけ」っていつの日か言われそうじゃないですか?
ヴァイオリンのミュートは楽器に悪いのか?
でも確かにミュートを使うということは駒から楽器本体への振動を遮断しているわけですから、それが楽器の良い意味でのエージングを阻害している、だから楽器が少しずつ鳴りにくくなる・・・。理屈としては理解できます。
あれ、でもおかしいな、齋藤秀雄さんは弟子がアメリカからミュートをお土産に持って帰ってきてくれて喜んだ、みたいな話を何かの本で読んだことがあります。本当に楽器に悪いなら「なんでこんなものを!」となっていても不思議ではありません。さすがにお土産に説教をするつもりにならなかったのか、昭和だから研究が進んでいなかっただけなのか・・・?
この他にも新進気鋭のヴァイオリニスト・荒井里桜さんは「高校進学のころまで自宅ではミュートを使って練習していた」とどこかで語っていました。高校といっても東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校です。そんなにミュートが楽器に悪いなら、高校進学で躓いていた可能性がありますが・・・?
調べてみたところ、とあるヴァイオリン製作家のHPには、ミュートを装着したことで楽器が鳴らなくなるということを示した研究結果は、自分が知る限り今のところ無いとも書かれていました。結局一体何が本当なのか・・・。
私はある日「どうなんでしょう」と尋ねてみたところ、意外な答えが帰ってきました。
「ミュート自体が悪いのではなく悪いのはあなただ。ミュートを付けた響きに慣れてしまい、楽器を思い切り鳴らしたり、駒の近くで弾いたとき、遠くで弾いたときの違いを区別しづらくなったり、微妙な弓の操作の違いでどう音が変わるかも感じられなくなりがち。そうなると、自宅でミュートつきで弾いたときと、広いステージで弾いたときの響きは当然違うわけだから、本番で『こんなはずでは』ということになりやすい。やはりミュートなしで演奏する時間を確保したほうがいい」。
悪いのはあなただ。
悪いのはあなただ。
悪いのはあなただ・・・。
さすがプロ、レッスン室での演奏がうまく行かないのも、本番がなおさら大爆死なのも、すべてがたった一言で腑に落ちてしまいました。そりゃ小学生に負けるわ。俺の人生この先何年生きても何も残せないな。さすがにガクッと来ました。
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