動画サイトといえばYouTube一択の時代になりました。ニコニコ動画などもあることはありますが、世界的にユーザーを獲得したYouTubeとくらべるとコンテンツの質量ともに大違い。日経新聞などを読んでいると「経済がデジタル化した結果、格差が拡大していった」のような論調の記事を見かけることがあります。要するにひと握りの強い奴がますます強くなって残りは見向きもされなくなるということです。日本やアメリカで中間層というものが現象し、これまたひと握りの富裕層がますます富を獲得し、中流だと思っていた人が「生活が苦しくなった」と言っているのとほぼ符合します。
その「天下を取った」YouTubeを見てみると、まあ色んな言語で色んなコンテンツがあることあること。最新家電のレビューだったりピラミッドを撮影していたりコアラやカンガルーが登場したりと、毎日山のように誰かが動画を公開しています。音楽についてのコンテンツもまたしかり。なんと戦前のフルトヴェングラーとかカラヤンとかの貴重な音源が聴けるのはありがたいです。本当にタイトルどおりの音源なのか? というとアップロードしてくれた人を信用するか、自分の耳で検証するしかないですが。
しかしYouTubeで音楽を聴くことには弊害もあると言わざるを得ません。YouTubeは動画サイトである以上、聴覚だけではなく視覚でも楽しむことができます。するとどうなるか・・・。
音楽なのか音楽じゃないのか分からなくなるYouTube
たとえばJ-POPなどの場合、どうしても動画配信によって得られる広告収益やCDの売上などを意識せざるを得ません。となると再生回数が鍵。勢い、見て華がある動画づくりを志向するようになるでしょう。だからなのか、近年のポピュラーソングは激しいダンスやグループダンスの精度が着目されるようになり、とはいえ実際のライブでは踊りながら歌うことは無理ですから口パクになります。
私がよく聴いているクラシックの場合、何が起こっているか。90年代~2000年代には、若手ヴァイオリニストやピアニストがアイドルのごとく、打ち上げ花火のごとくCDデビューし、しばらくすると消えていくということが繰り返されていました。YouTubeが普及してからは場を変えて似たようなことが起こっているように思えてなりません。
具体的には、「ツィゴイネルワイゼン」とか「タイスの瞑想曲」といった曲をベテランヴァイオリニストと女子大生のようなヴァイオリニストが公開しているとして、なぜか後者のほうが圧倒的に再生回数が伸びており、コメントも多く投稿されているのです。いやいや、積み重ねてきたキャリアやリリースしたCDの枚数ではベテランのほうが上なのですが・・・。なぜこうなっているのかというと「女子大生のほうが可愛いから」以外の理由が思い当たりません。
本来、ヴァイオリン演奏の鑑賞のポイントとしては、たとえば「ハイフェッツは音の粒がしっかりしており、速く聴こえるが実際はそこまで速くない」「この人は平均律で音程取ってるな。だって、モノトーンに聴こえて色気がないもの」「ヴィブラートを遅くして、濃厚な音にしてるな」のような事柄が挙げられます。ここに挙げたハイフェッツのような大家と呼ばれる人はそれぞれ強烈な個性があり、ヴァイオリンという楽器の表現の細やかさに驚かされます。
が、やはりまだ修行途中の人の演奏は正直な話、「確かにうまい。私よりはるかにうまい。しかしうまいだけである」という感想くらいしか出てきません(一流音楽大学を卒業しただけでも大変なことだというのはわかります。私はあと50年練習してもぜったいそこまで行けません)。にもかかわらずこうした演奏動画の再生回数が伸びているのは、要するにYouTubeは視覚優先であり、これを使っているユーザーも鑑賞のポイントを知らぬままアイドル的に称賛しているだけではないでしょうか。
ちなみに、アイドルファンというのは最初はAさんを推していても数年経過するとAさんを忘れてもっと若いBさんの方へ流れていってしまうものです。ということは、今人気の女子大生ヴァイオリニストも・・・。いや、余計なことは書かなくていいですね。
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