『名探偵コナン』とか『金田一少年の事件簿』を読んでいると、「犯人はこいつだろう」と思う瞬間が訪れます。キョドキョドしていて言動が不自然だったり、アリバイが不十分だったり、いかにも怪しい。なにより名探偵毛利小五郎も私と同じ意見。間違いない。



犯人はお前だ!






・・・間違いでした。でもその間違いが「正しい」と認定されてしまうことがあります。裁判で。犯人扱いされた人は「ワイは無実や!」と控訴するでしょう。その控訴が棄却されると本当に偽者の犯人なのに本者ということになり、本当は悪くないのに悪い人だというレッテルを貼られてその後の人生がハードモードになるわけです。

日経新聞2010年3月26日記事「菅家さん無罪確定 裁判長、頭下げ異例の謝罪」によると、

栃木県足利市で1990年に起きた「足利事件」で、無期懲役確定後に釈放された菅家利和さん(63)の再審判決公判で、宇都宮地裁の佐藤正信裁判長は26日、無罪を言い渡した。検察側は同日、上訴権放棄の手続きを申し立て、菅家さんの無罪が確定した。逮捕から18年3カ月を経て、冤罪(えんざい)を生んだ審理は終結した。

佐藤裁判長は判決理由の朗読後、「判決は以上ですが、今回は、自戒の意味を込めて菅家さんに謝罪させていただきたい」と切り出し、「菅家さんの真実の声に耳を傾けられず、17年半にわたり自由を奪う結果になったことを、裁判官として申し訳ないと思います」と異例の謝罪。法壇の3裁判官が立ち上がり「申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げた。
この手の再審プロセスで浮かびあがりがちなのが、検察がストーリーをこしらえて、これに合致しないものは「なかった」ということにしてしまうこと。審理の途中で弁護士が問い詰めてそれが発覚しがちです。

私が最近読んだ小説『贖罪』(イアン・マキューアン、小山太一/訳 、新潮文庫)もそんな感じでした。

文学少女が告発! 「犯人はお前だ!」→間違いでした。人の人生を変えてしまいました。

『つぐない』という題名で映画化もされたこの作品。新潮社のHPによると、
13歳の夏、作家を夢見るブライオニーは偽りの告発をした。姉セシーリアの恋人ロビーの破廉恥な罪を。それがどれほど禍根を残すかなど、考えもせずに――引き裂かれた恋人たちの運命。ロビーが味わう想像を絶する苦難。やがて第二次大戦が始まり、自らが犯した過ちを悔いたブライオニーは看護婦を志す。すべてを償うことは可能なのか。そしてあの夏の真実とは。現代英文学の金字塔的名作!
ロビーは本当はとある不名誉きわまる犯罪を犯していないにも関わらず、文学少女ブライオニーは生まれつきの夢見がちな性格が災いして、見てもいない光景を「見た」と証言してしまい、真犯人をうまうまと取り逃がしてしまうだけでなく、その場にいなかったはずのロビーが犯人扱いされ、裁判でそのことが確定してしまいます。

ロビーはその後収監され、第二次世界大戦が始まると大陸へ送られますがイギリス軍が敗走する中、彼もまた傷を負いながら撤収作戦の集結地点であるダンケルクの岸辺へ向かいます。
恋人セシーリアは事件をきっかけに妹ブライオニーと縁を切り、看護婦としてロンドンの病院で勤務し負傷兵のために尽くします。いつかロビーが帰還することを願いつつ・・・。

「戦争が終わったら、村で待ってる幼なじみと結婚するんだ」みたいな台詞を死亡フラグと言います。こういうことを言う人って、大抵あとで死んじゃうよねということから、この名前が付きました。果たしてロビーは無事戦地から帰還できるのでしょうか。ダンケルクの撤退作戦ではドイツ陸軍が停止し、空軍で決着をつけようとしたヒトラーの判断ミスに助けられ、多くの兵士がイギリスへ戻ってきますが・・・。

そうやって恋人の明るい将来を願いながら読み進めてたどり着いた最終章には誰もが唖然となるはず。そんなはずは・・・。間違った証言をしてしまったその償いがこれなのか!? そんな償いってあるのか?? 最後まで読み進めたあなたは、もう毛利小五郎のことをヘボ探偵と呼ぶことはできないはず。ブライオニー、これがあなたの償いだったのですね・・・。