私は以前の記事
でチリのピノ・ノワールに別れを告げたつもりでした。
ピノ・ノワールというのはカベルネ・ソーヴィニヨンとかメルローとかシャルドネといったブドウ品種のひとつ。気難しい品種で、適切な土壌で栽培しなければ期待通りに収穫することができません。芸能人でいえば渡辺麻友さんが近いでしょう。彼女はアイドルとしては一目で分かるほどの気品をたたえ、女優としての将来も期待されていましたが健康上の理由で芸能界を引退しています。
ピノ・ノワールもブルゴーニュ以外の土地ではうまく育たず、たとえ育ったとしても「なんだか違うよね」という出来栄えになってしまうのです。強いて言えばカリフォルニアとニュージーランドでしょう。でも前者は明るすぎ、後者はどういうわけかちょっとぽってりした味わいになってしまうのです。ニュージーランドは白ワインとくにソーヴィニヨン・ブランは紛れもなく世界に冠たる出来栄えなのに、どういうわけかピノ・ノワールは「あれ?」な味わいです。
そのピノ・ノワールをチリで栽培するとどうなるか。チリは安旨ワインの産地として知られており、「大地」とか「力強さ」を感じさせる味わいになります。分かりやすい味なので、誰からも歓迎されるハンバーグ定食みたいな立ち位置です。
が。私はチリのピノ・ノワールをどうしても美味しいと思えず、もう買うまいと封印していました。
しかし、人は同じ失敗を何度でも繰り返す生き物でした。
まずいピノ・ノワールがもっとまずくなる不思議体験
私が言っているチリのピノ・ノワールは、近所のダイエー系列で売られている1本500円くらいのもの。どれだけ年収が上がろうと投資信託などの運用がうまく行こうと、歯ブラシ1本29円、歯磨き粉68円、納豆3パック38円を見かけると必ず買うという金銭感覚の持主。というかこれが自分にとってのスタンダードになってしまい、2023年夏に訪れたニュージーランドで「缶コーヒー1本4ドル(360円)」を見てひっくり返りました。
とはいえワインの経験を積むためにはちょっとはマシなものを飲まなくては。というわけで成城石井で1,200円程度のポルトガルの白ワイン、そして特売で1,200円(通常価格は1,400円)のフランスの(どうやらブルゴーニュではないらしい)ピノ・ノワールを買ってきました。
いやうまいことうまいこと、舌に乗せたらサッと涼し気な風が吹き渡るような白ワイン。白の後は赤(逆はいけません。赤のタンニンが舌に付着して白の味が分からなくなります)。このピノ・ノワールのこれまた美味しいこと。軽めの味わいはあたかも水彩画。鼻腔には香りが長く漂い、儚く消えていきます。お前は神の雫か?
しかしどんな楽しい時間にも終わりというものが訪れます。私はピノ・ノワールを2日で飲み干してしまいました。2日めはピノ・ノワールがもう残ってないからと、前述の500円のチリのピノ・ノワールを飲み始めました。
やめておけばよかったです。ピアノの達人のあとに素人が演奏すると素人の下手さが必要以上に際立ってしまいますよね。それと同じことが起こりました。私の口の中で。げほげほっ。まずい! まずすぎる!! 最悪の組み合わせを選んでしまったことを深く後悔しました。
翌日。このチリのピノ・ノワールの残りを捨てるのはもったいない。仕方ないからと同じくらいの価格帯のしょうもない白ワインを買ってきました。そしてまた白→赤と飲み進めるのですが、しょうもない白ワインを飲んでしょうもない赤ワインという順番だと、しょうもない赤ワインが「まあこんなもんかな」という程度に感じられるのです。
察するに、まず美味しいワインを飲むと味覚がそのレベルまで引き上げられるのでしょう。これと逆に、しょうもないワインをまず飲むと自分の味覚がそれなりに抑えられてしまうのではないか・・・。
よく、骨董の目利きになるには「とにかくたくさんいいものを見ることだ」と言いますが、美味しいワインとまずいワインを結果的に飲み比べることでその意味がよくわかりました。
しかし1本1,200円のワインで感動できるなら、3,000円、5,000円、1万円とレベルアップしていったらいったいどんな世界が広がっているのでしょうか。謎はますます深まるばかりです。
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