戦費調達。これは難しい課題です。本当に戦費調達に駆けずり回る大蔵省(財務省)の関係者にしてみれば「お前なんかに難しいなんて言われたくねーよ」と言われるに決まっています。
日清戦争以後、朝鮮及び中国東北地方(以後「満洲」と称す〉をめぐる日露両国の関係はしだいに急をつげ、明治36年6月、御前会議で対露交渉を決定し、外交交渉を重ねたのち、 37年2月宣戦を布告して日露戦争が始まった。この問、大蔵省ではすでに36年10月ごろから、ロシアとの戦争は避けられないとの想定のもとに、戦時財政運営の準備体制にはいった。(『大蔵省史 -明治・大正・昭和-』より)
日清戦争ののち日露戦争へ・・・、これは小学生でも知っている事実です。しかし戦費調達にどれほど苦労したかまでは、時間の都合上あまり学校教育の現場では触れられないのが実情でしょう。
日清戦争では戦費のおよそ半分を公債に、日露戦争ではじつに80%弱をやはり公債に依存したとされており、後者では戦費調達のために当時日銀副総裁であった高橋是清がロンドンやニューヨークで奔走することになります。こうして積み上がった借金は数十年かかって(一説には1982年とされていますが、真偽不明)返済されたようです。
というわけで戦争をするには金がかかるもの。ナチス・ドイツが採用した景気対策を始めとする一連の政策は結局のところ東方拡大を目的とした戦争準備を念頭に置いたものとされています。しかし再軍備を宣言するのはいいとして、どうやって戦費を調達するのか。
そこでできたのが源泉徴収だとされています。給与明細を見ると「所得税」という欄があり、一定の金額が控除されています。こうやって社員から控除した所得税を、経理部門の人がかき集めて(というか集計して)納税しているわけです。自分で納税するのではなく、給与から強制的に差し引かれる、会社があなたに代わって納税する。これを源泉徴収といいます。
インターネットで検索してみると
源泉徴収とは、給与や報酬などの支払いをする前に、所得税を控除することです。
日本では、戦時中の昭和15年(1940年)にナチスドイツを模範にして始まりました。
当時は軍事費用を効率的に徴収するために導入されたと言われていますが、戦後になっても税金を効率的に徴収できるという理由から、廃止されることはなくそのまま続いています。(https://www.ebata-cpa.com/tips/page24/より)
といったような説明を複数のサイトで確認することができます。これを読むとああそうか、さすがナチス、悪賢い奴がいたんだな。日本もえげつないな。でも日中戦争が始まってたし、当時の人は勝利を目指して頑張るしかなかったんだろうな・・・、と思ってしまうでしょう。
違いました。東京外国語大学大学院・小野寺拓也准教授および甲南大学・田野大輔教授『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』によると、「ドイツではすでにヴァイマール初期の税制改革により、所得税の源泉徴収が導入されていた」と書かれていました。小野寺准教授および田野教授はともにドイツ現代史の専攻であり、ナチスやファシズムに関する著作がこの他にもありますので、十分調べたうえでの研究結果なのでしょう。
私はこの本を読むまでてっきり「ああそうか、さすがナチス、悪賢い奴がいたんだな。日本もえげつないな」と思っていました(舛添要一氏も著作で「源泉徴収はナチスが始めた」と記述しているとか。私と同じ罠にかかったようです)。要するに「源泉徴収はナチスが始めた」というのは俗説であって、よく調べてみるとじつはそうじゃなかったと。
しかし他にも「一般にはそう思われているが本当は違う」というのは探せばボロボロと出てくるでしょう。もしかしたらこのブログも間違いだらけなのに知らぬが仏なのかもしれません。恐ろしいので私は考えるのをやめました。
コメント