私は何度かマッチングアプリについて記事化しています。このアプリほど、男女で明暗がくっきり分かれるものもないでしょう。

男性は毎月3,000円程度の会費が発生する一方で女性はタダ。男性は1件のマッチングを得るために何十もの「いいね」をばらまかなければなりません。ネットで検索すると「男性は10~20%が平均」のような情報がヒットしますがはっきり言って嘘でしょう。でなければ運営側がそれこそ大本営発表のごとく都合のいい計算式で都合のいい数字を出しているのでしょう(私の地元にはそういうフィクションのような数字を積み上げた結果、経営に行き詰まって解散した第三セクターがあります、否ありました)。

なにしろ10~20%なら10回いいねすれば1回はマッチングするわけですから、2,3日に1回はマッチングするはず。現実には1ヶ月に3,4人程度、そこから実際に会えるのは1人くらいと見るべきでしょう。

朝日新聞記事「マッチングアプリは「人間の本音を解放する」 経営学者は心が折れた」では、東京都立大学大学院の高橋勅徳准教授が次のように語ります。

「始める前は正直、僕は条件的にレアなキャラなんじゃないかと思ってたんです。公立大学の先生で年収1千万円、未婚で離婚歴もなし。でも、僕程度では勝ち目がない、と思い知らされました」

(中略)

 「片っ端から申し込むショットガン方式でアプローチしたら、月に1人か2人マッチしました。しかしその後、チャット機能で『お仕事は何をしているのですか』とか『休日は何をしていますか』というやりとりをしたら、だいたい3ターンくらいで終わりました」

(中略)

 ――そもそもマッチングアプリは、女性だけが選ぶシステムなのですか。

 「現実を反映して、そういう傾向が生じているのかもしれません。そもそも恋愛結婚の時代では、男性の方が交際の申し込みやプロポーズをするというある種の社会規範が存在してきました。だからアプリも同じように、『男性が申し込んで、女性が選ぶ』システムになっているのでしょう」

 「さらにアプリでは、女性が無料で、男性が課金するものが多い。女性は男性よりも交際人数が多い、という内閣府などのデータがあります。現実社会で女性の方が出会いのチャンスが多いのなら、市場原理で言えば、アプリでは男性がお金を払い、選択権は女性の方に多くあるのが自然です」

そして、「欲望が際限なく増大すると、むしろ婚期が遅れるリスク」を指摘しています。
これはよくわかります。トランプで遊んでいて、自分の手札が「7」。この手札を捨てて、次にカードを引けば「8」や「9」が出てくるかもしれない。JとかQとかKの可能性だってある。7以上の数値が出る確率はおよそ50%。ならば勝算はあるはずだ・・・。こんな風に考えたとしても不思議ではありません。なにしろマッチングアプリを使えば出会いの数は理論上無限大。経済評論などで知られる勝間和代氏は結婚で成功するには「じゃんけん、じゃんけん、またじゃんけん。いつか勝ちます」と言っています。

問題は、「いつ勝つのか」ということです。「8以上のカードをゲットしたら、そこで必ずゲーム終了とする」のように自分で明確な線引がなければ、いつまでもJとかQとかKを狙ってカードを引き続けるでしょう。でもそうしていくうちに自分も年を取って競争力がなくなっていくんですけどね。これぞ「婚期が遅れるリスク」。

これは、いわば「選択のパラドックス」。アメリカの心理学者バリー・シュワルツ氏が提唱する理論です。
選択肢が限定されているか、そもそも選択の余地がなければ「ああそうかな」で終わっていたのに、選択肢が増えることで期待値が上昇し、しかし実際に選択したものは自分の期待を満たすほどではなく、満足を得られないというパラドックスです。

たしかに、映画などの動画コンテンツひとつ取っても平成初期と令和とでは質も量も桁違い(体感値5倍)。だからといって、自分が学生時代のころと比べてそのコンテンツを体験することで5倍感動して幸せかというとそうでもありません。

思えば、お見合い結婚という本人の意志を完全に尊重したかどうか疑問が拭いきれない婚姻だったとしても、恋愛を経ての結婚とくらべて前者の幸福度が後者に劣るかどうか・・・。結局どっちも大差ないのではないかと私は疑っています。

それにしても、選択肢が多いとかえって不満が募るというのは、人間の判断力がいかに不完全であるかを示唆する面白いお話です。マッチングアプリもそもそも人間が開発し、人間が利用するものですから使っていてイライラする羽目になるのもむしろ当然なのかもしれませんね。