天皇陛下は登山やテニスなどがお好きだということは広く知られています。スポーツだけではなく、クラシック音楽にも造詣が深く、ヴィオラをお弾きになります。そのヴィオラの腕前はいったいどれほどのものだろう? CDがリリースされているわけでもありませんから、想像するほかありませんでした。

しかしこのたび(2023年4月)、紀伊國屋書店から若き日のオックスフォード大学留学記『テムズとともに 英国の二年間』が復刊され、この中に学生と室内楽を楽しんだという記述があり、これを読むと天皇陛下の(といってもおよそ40年前の状況なのだが)をうかがい知ることができます。結論からいうと、相当の腕前のようです・・・。


室内楽を楽しまれる天皇陛下

『テムズとともに 英国の二年間』には、最初のうちはハイドンを取り上げ、そこから次第にモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトを演奏したと書かれています。
具体的には、ハイドンでは「ひばり」「五度」「鳥」、モーツァルトの場合は「ハイドン・セット」から数曲に取り組まれたようです。
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は「大フーガ」を含めると17曲あり、そのうち1番から11番まで、初期から中期の作品をすべて弾くことができたようです。

この他にシューベルトでは「死と乙女」、ブラームスの「クラリネット五重奏曲」、ドヴォルザークの「アメリカ」などを演奏したと書かれていました。

これらの曲は室内楽のなかでも主要レパートリーと言うにふさわしく、特にベートーヴェンの弦楽四重奏曲は世界中のありとあらゆる弦楽四重奏団がその実力を証明するために、また音楽家としての一層の飛躍を願って、必ず定期的に挑戦する曲でもあります。

ところで、弦楽四重奏曲のヴィオラパートというのはどれくらい難しいのでしょうか。ちょっと楽譜を覗いてみましょう。

quartet
これはシューベルトの「死と乙女」のヴィオラパート譜です。
ヴァイオリンほどちょこまかした動きは要求されませんが、ヴァイオリンよりも低い音が出る楽器なだけにメロディというよりもむしろ「内声部」を受け持つことになります。内声部というのは普段注目されにくいものの、ハーモニーを作り出す上でこれがないとスカスカな響きになってしまいます。

楽譜を見てみると、譜面そのものはそれほど難しくはありませんが他の3人と合わせようとするとうまく呼吸がそろわないのが音楽の難しさ。自宅でメトロノームで練習しているのとはわけが違います。こうした名曲を学友と2年間の留学時代に次から次へと弾いていったわけですね。

そりゃ1曲弾くだけならなんとかなりますが、ベートーヴェンの第1番を弾いて来月は2番という具合に進んでいったはずですから、もともとの腕前がしっかりしていないと絶対に付いていけません。言うまでもなく、オックスフォード大学には音楽のために留学したのではなく、ご自身の学修を深く掘り下げてゆくためでした。つまり普段は専ら勉強に励んでいたわけであり、練習時間も限られていたはず。
にもかかわらずハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンとどんどん演奏されていったということは留学した時点でやはり相当の音楽的実力があったことが予想されます。

うーん、ワイみたいな無能な人間とはぜんぜん出来が違います!