スタンダールの代表作『赤と黒』で、主人公ジュリヤン・ソレルは物語の後半でラ・モール侯爵の秘書となります。秘書といってもスケジュールの調整をしたりお茶を出したりするわけではなく、手紙の代筆(いかにもラ・モール侯爵が言いそうなことを書いて、チェックしてもらう)をするといった仕事でした。この他にブルターニュとノルマンディーにある領地を管理したり、訴訟に関するやりとりを行ったりといったことを任されていました。
侯爵の簡単な指示をもとにジュリヤン・ソレルが返事の文章を書くと、ほとんど全部がそのまま署名してもらえるようになります。つまり彼はそれだけ優秀だったんですね。
やがて彼は侯爵のサロンにも出入りするようになります。しかしこれが陰キャで一人ぼっちでいるのが好きな私にとっては苦痛極まりない場所なのです。
十万エキュの年金をもっていようと、青綬章(コルドン・ブルー)をもっていようと、こういうサロンの憲章に楯つくことはできない。ほんのすこしでも活潑な意見を述べたりすると、下品だといわれる。お上品で、いかにも丁重で、ひとの気を害さないようにつとめてはいるものの、だれの顔にも退屈の色が読み取れる。義理でやってくる若い連中も、うっかりしたことをいって、思想傾向を疑われたり、禁書を読んでいることがばれたりしてはという心配から、ロッシーニのこととか、天気のこととかについて、二、三洒落たことをいうと、あとは黙り込んでしまう。
ジュリヤンはこの光景を「豪華と退屈」と感じているようです。そりゃ嫌ですよね。見栄とか建前とか上辺だけの会話でしかないわけで、しかも微妙にマウントの取り合いな空間なんて・・・。
我慢できなくなったジュリヤンはピラール神父に相談します。
「先生、毎日、侯爵夫人とご一緒に晩餐をいただくのも、やっぱりわたくしの義務なのでしょうか? それともわたくしに対する好意から出たことなのでしょうか?」
ピラール神父はジュリヤンの気持ちが分からなかったらしく、このうえもない名誉だと回答します。なんてこったい。
このサロンの中心にいるのがマチルド嬢でした。彼女はいろいろな貴族連中をこき下ろします。この中の一人は実在するロスチャイルド男爵がモデルになっています。大金持ちなのに女子高生みたいな奴にバカにされるなんて・・・。
なんだかこういう退屈なグループと、悪口だらけのコミュニティってどこにでもあるんだなあということが、この場面を読んでいるとひしひしと感じられます。
ジュリヤンも似たようなことを考えたらしく、この光景を目の当たりにして
「これで、おれと全然反対の立場の連中をみることができたわけだ! おれは二十ルイの年収もないのに、一時間に二十ルイも収入のある男と肩を並べたわけだし、その男のほうがばかにされたのだ。・・・こんな光景を見ると羨ましい気持なんて起こらなくなる」
このように感じるのでした。
このブログは「友だちいない研究所」であり、つまり管理人である私には友だちがいません。
しかし下手に友だちが多いとこういうコミュニティに巻き込まれていたかもしれず、むしろ一人で黙ってジョギングしたり筋トレしたりヴァイオリンの練習をしたり本を呼んだりブログを書いたりしている方がよほど幸福であろうと思えてなりません。
ああ、友だちいなくてよかった!!
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