2023年2月26日、所沢市民文化センター・ミューズアークホールで行われた読売日本交響楽団の演奏会。曲目はショパンの『ピアノ協奏曲第一番』そしてマーラーの『交響曲第一番』。
ピアニストは2021年10月、第18回ショパン国際ピアノコンクールに第4位入賞を果たした小林愛実さん。期待の新星です。
一体どのようなショパンを奏でるのかとワクワクしつつコンサートホールに向かった私は、ピアノの第一音が鳴り響いたその瞬間に自分が想像していたものが来たと内心ほくそ笑みました。
長い序奏ではオーケストラだけで主題が提示され、その後ピアノがようやく登場。その時の音が出てくるまでわずか数分でしたがどれだけ長く感じたことでしょう。しかし、出てきた音がいかに私たちが創造する「ショパン」にあふれていたことか。思っていることをストレートに表現せず、また大言壮語するでもなく、弱音を連続させたり和声を変化させたり、といった手段で相手に伝えようとするのがショパンの音楽の特徴ではありますが、たとえば第一楽章の第二主題、この有名なメロディをテンポを落としながら情緒てんめんに歌い上げる箇所など、時間を巻き戻せるならもう一度聴きたいと思わずにはいられませんでした。
そうは言ってもただ情緒に溺れるのではなく、タッチは(プロである以上当然ですが)正確無比、結果として主観と客観が両立した見事なもの。一般的に、「伝える」と「伝わる」は似ているようで全くの別物です。音楽とくに器楽演奏で難しいのは「伝えたいこと」を「伝わってほしいように」第三者に「伝える」ことです。
その点、本日の小林愛実さんはこの曲のひとつの模範と言っても良いと思います。ショパンの独特ともいえる、憂いを秘めつつも切なさや憧れをも含んだ旋律の運びを、あえて表情を若干抑え気味にし、自分の感性というよりもただ楽譜に語らせるといったたたずまいはかえって音楽の個性を浮き彫りにします。
しかし第一楽章の再現部においては、第二主題が戻ってくると提示部よりもなおテンポを落としてじっくりと歌いあげる箇所など、聴き手がこうあってほしいと思う心理を把握したうえでそのようにしているであろうと想像され、客観一辺倒ではないこともうかがわせます。
ピアニストは2021年10月、第18回ショパン国際ピアノコンクールに第4位入賞を果たした小林愛実さん。期待の新星です。
一体どのようなショパンを奏でるのかとワクワクしつつコンサートホールに向かった私は、ピアノの第一音が鳴り響いたその瞬間に自分が想像していたものが来たと内心ほくそ笑みました。
長い序奏ではオーケストラだけで主題が提示され、その後ピアノがようやく登場。その時の音が出てくるまでわずか数分でしたがどれだけ長く感じたことでしょう。しかし、出てきた音がいかに私たちが創造する「ショパン」にあふれていたことか。思っていることをストレートに表現せず、また大言壮語するでもなく、弱音を連続させたり和声を変化させたり、といった手段で相手に伝えようとするのがショパンの音楽の特徴ではありますが、たとえば第一楽章の第二主題、この有名なメロディをテンポを落としながら情緒てんめんに歌い上げる箇所など、時間を巻き戻せるならもう一度聴きたいと思わずにはいられませんでした。
そうは言ってもただ情緒に溺れるのではなく、タッチは(プロである以上当然ですが)正確無比、結果として主観と客観が両立した見事なもの。一般的に、「伝える」と「伝わる」は似ているようで全くの別物です。音楽とくに器楽演奏で難しいのは「伝えたいこと」を「伝わってほしいように」第三者に「伝える」ことです。
その点、本日の小林愛実さんはこの曲のひとつの模範と言っても良いと思います。ショパンの独特ともいえる、憂いを秘めつつも切なさや憧れをも含んだ旋律の運びを、あえて表情を若干抑え気味にし、自分の感性というよりもただ楽譜に語らせるといったたたずまいはかえって音楽の個性を浮き彫りにします。
しかし第一楽章の再現部においては、第二主題が戻ってくると提示部よりもなおテンポを落としてじっくりと歌いあげる箇所など、聴き手がこうあってほしいと思う心理を把握したうえでそのようにしているであろうと想像され、客観一辺倒ではないこともうかがわせます。
続く第二楽章の静謐な音の流れもやはり特筆すべきであって、うまく音がつながらないと雰囲気が完全に壊れてしまい睡眠・・・、どころかフラストレーションが溜まってしまうという難所です。そこはやはりショパン国際ピアノコンクールの上位入賞者の面目躍如というべきか、弱音の連続のなかに作曲者が託した想いをうまくくみ取っている様子が伝わります。こういう音を「美しい」と感じられる心こそ、クラシックを愛する人が最も大切にすべき感性でしょう。
この後に第三楽章が続きます。雰囲気はうって変わって躍動感あふれるものへ。ポーランドの舞曲をもとにしたフィナーレは誰が演奏しても心が弾みます。特別なことは特にしていないはず(といってもこの曲は相当難しいはずなのだが)なのに、流麗な音の運びであっという間にエンディングへ。初めて小林愛実さんの演奏を聴きましたが、確かなテクニックをもとに作曲家の心情を描き出す弾きぶりは、良い意味で控えめなもの。これからも時間をかけてじっくりと注目すべきピアニストであることは間違いないでしょう。
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