ヴァイオリンを演奏していると、当然ヴィブラートを使う場面というのが出てきます。
しかしこの塩梅というのがなかなか難しくて、バロックでは使いすぎてはいけませんし、ピリオド奏法ではノンヴィブラートで押し通すということも起こりえます(私はピリオド奏法が好きになれませんが。だって、病院の食事とか糖質ゼロビールみたいに旨味がないんですもの)。

一方でロマン派音楽たとえばブラームスとかマーラーとかではヴィブラートがないと潤いがなく、ロマンチックな雰囲気が出てきません。ヴィブラートのないチャイコフスキーやドヴォルザークもいまいち想像しにくいですよね。

・・・ということはリスナーの立場だから言えることであって、いざ自分が演奏する立場になってみると何でもかんでも色んなフレーズでヴィブラートを使ってしまいがち。ただのアホ(私)です。


ヴィブラートを的確に使うためには

ある日、ピアニストととあるソナタを練習していて、案の定ヴィブラートの使い方について指摘を受けました。その内容を箇条書きしておきましょう。

・そもそも、ヴァイオリンが十分に響いていない。

・ヴァイオリンが十分に響くとはなにか。ためしに開放弦で弾いてみてほしい・・・。そうだ。楽器を顎と肩でしっかり挟んでから、左手を話して裏板に当ててみてほしい。それで開放弦で弾いてみなさい・・・。どうでしょう、裏板がブーンと鳴動しているのがわかりますか。これが十分に響いた状態である。

・作曲家によって、音の核の大きさが違う。

モーツァルトはこんな感じ。
1

わりと核は小さめ。そしてけっこう軽みがあって弾む感じのサウンドになる。
ベートーヴェンはもっと核が大きくなる。

2
これくらい。モーツァルトとはかなり音質が異なっている。

シューベルトはモーツァルトとベートーヴェンの中間くらい。

この「核」をヴァイオリンそのものを響かせて音として表現することが大事。
核の周りにある白い部分だが、これを楽器そのものの響きだけでは表現できない場合、それを補うためにヴィブラートを使うのである。

・バロックの場合、黒い丸はモーツァルトよりもさらに小さい(だからバロックではそんなにヴィブラートが多用されない)。

・ちなみに、今のあなたの黒丸はこれくらい(と言って、干しぶどうのような黒い点を鉛筆で書いてくれた。つまりぜんぜん響いてないってことです)。

大体こういうことを教えてくれました。そうか、だから時代ごとの様式感とか、作曲家の個性を把握することが大事なのか・・・。って、よく考えてみたら当たり前の話なんですけどね。

ただ、大抵のヴァイオリン弾きには重大な問題があって・・・、ヴァイオリンの響き云々と先生はありがたいお話を垂れますが、そもそもアマチュアの場合舞台に上がったとたんに緊張してプルプル震えたりして、うまく右手に力が入らず、弓に思ったとおりの圧力をかけることができない、というケースが山のようにあるはずです(私はそうです)。

第三者から「うまい」と思える演奏なんて一生無理じゃないの? と思いましたが、このピアニストは「私は自分の棺桶に納得いく一曲(の演奏)を入れることができればそれでよいと思っています」。なんだ、プロでもそんな感じなのか・・・。こりゃ自分には人生が何回あっても足りないぞ・・・。