昔、ピアノの鍵盤は象牙でできていました。鍵盤だけではありません。将棋の駒も象牙だったのです。今思えば信じられないような話ですが、私が子供だったときは誰もがそれを当たり前の風景として受け入れていました。
その後輸出規制が強化され、鍵盤はアクリルなどの新素材に取って代わりました。
べつにピアノを弾くわけでもない私にしてみれば「へえ」で終わるべきところ、2022年にはヴァイオリンの弓に使われる木材であるフェルナンブーコもまた輸出規制が強化されるなどという厄介なニュースが飛び込んできました。今のところ商業目的の取引は可能とされていますが、今後はどうなるかは分かりません。この問題については以下の記事で少し掘り下げておきました。
さて私はこのたび、カーボン弓の最高峰コーダボウ(Coda Bow)Marquise GSを購入してみました。フランス製の40万円ほどの弓をもともと1本持っていましたが、次のような理由で弓を追加することにしたのでした。
1.性格が違う弓を持っておくのもいいだろう。
2.為替動向、世界情勢によっては電気代、ガス代ばかりかヴァイオリンの弓さえ値上げされるかもしれない。今40万で買える弓が、数年後には60万円出さなければ手に入らなくなっているかもしれない。長期的に見れば日本経済の地盤沈下は不可避だから、そうなる可能性は十分ある。
3.「後の祭り」という言葉がある。フェルナンブーコの輸出規制がさらに強化されたらなおさら弓が手に入らなくなるかもしれない。
というわけで買ってきたのがMarquise GSでした。店頭価格22万(税込)。ポンと現金で買える値段ではありませんが、冬のボーナスの使い道がまったく思い浮かばず・・・、という時期だったのでそれこそ何の苦もなく現金で買ってきました。
カーボン弓、コーダボウ(Coda Bow)Marquise GSの感想
比較対象として、お店では15万円程度の木製の普通の弓とCoda Diamond GXを出してもらいました。
正直な話、最初からMarquise GSに狙いを定めていたわけではありませんでした。
ところが15万円くらいの木製の弓とMarquise GSを比べてみてびっくり。Marquise GSの方が音の密度がしっかりとしているのでした。そんなことってあるのか・・・。でも本当にそうだったのです。
私の思い込みじゃないのか、「そうあってほしい」と思いながら弾くからそういう音が出るだけじゃないのか・・・、などと自分の考えの裏をかこうとしながら複数回開放弦や重音を比べてみたものの、結果は同じでした。
弾き比べの解説動画も公開されていました。
ただパソコンやスマホのスピーカーでは弓が違うと音色がどう変わるのかは分かりにくいので、実際に店頭で自分で試してみるしかないでしょう。
Diamond GXとMarquise GSを比べてみると、まるで性格が違うタイプの弓だということもわかりました。ワインで言うなら同じカベルネ・ソーヴィニヨンでもボルドーとカリフォルニアでは味わいが異なります。それと同じです。店員さん曰く、「Diamond GXは若い弓をイメージしており、Marquise GSは年季を重ねた音が出てくる」。はっきりと覚えていませんが大体そんな感じの説明をしてくださいました。たしかにGXはちょっと硬めの音が出てきます。GXはクラシックよりもむしろロックバンドの一部としてステージに立ったときに存在感を発揮しそうです。大雑把に言うなれば、GXなら盛り上がる音楽を作れるだろう、GSならお客さんが泣いてくれるだろう・・・、といったところでしょう。
というわけでしばらく何本かの弓を弾き比べた後にMarquise GSを購入しました。
家に帰ってヴィヴァルディなどを弾いてみたところ、手に馴染む感じといい、音の伸びといい、もともと持っていた弓と比べても遜色ない音が出てくることを確認しました。これで22万だというなら値段以上の価値はありますし、それこそ木材の輸出規制や為替動向など未来には何があるか分かりませんから、自分にとっては意味のある買い物でした。
ただ・・・、弓はあくまでも道具であって、弾くのは自分なのです。いい弓を買えば上手くなるというものではないのでした・・・。
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