クリスマスシーズンになるとどこのバレエ団もこぞって『くるみ割り人形』を上演します。年末の『第九』みたいなものでしょうか。
新国立劇場もやはり2022年12月~翌年1月にかけて『くるみ割り人形』公演があり、私は2022年12月15日13時公演の回を鑑賞してきました。結論からいうと、幻想的でクリスマスらしい雰囲気に浸れる素晴らしい出来栄えでした。あと1回くらい、新国立劇場でもいいし、別の団体でもいいから今年のうちに『くるみ割り人形』を観たいと思いました。無理だと思いますが。

ご存知のとおり、『くるみ割り人形』にはいくつかパターンがあり、最後に王子と2人で踊るのがクララではなく金平糖の精だという場合と、少女クララがその時だけ王女のようになって踊るという場合があります。後者の場合は儚い初恋のニュアンスが漂います(私はこっちのほうが好きです)。

今回の新国立劇場の場合、会場で配布されたリーフレットによると、第1幕の前半のクララは子役が演じ、真夜中になりクララの夢の世界になると主演ダンサーが踊るという設定となっています。やはり夢の中でクララは大人として描かれているのですね。
その恋の相手となるのが、少女クララがクリスマスパーティーで出会った青年、ドロッセルマイヤーの甥。夢の中では、くるみ割り人形となりネズミ軍からクララを守り、最後には王子となってクララと愛のパ・ド・ドゥを踊る。クララと甥が出会い、夢の中でいくつもの苦難を経て心を寄せ合っていく過程が、大小さまざまなパ・ド・ドゥ(複雑なパートナーリング満載!)で描き出されていくのが本作の魅力の一つとなっている。
しかも、主演男性ダンサーが甥、くるみ割り人形、さらに王子の3つの役を兼ねなければならないというハードルの高いもの。観ている方は居眠りOKでも踊る側はそうはいきませんが、これはその極地と言えるでしょう。


個人的に素晴らしかったと思う点

第1幕の終盤の雪の結晶の踊りは本当に幻想的で素晴らしいの一言につきます。
群舞の一糸乱れぬ動きは気品という言葉に衣を被せるとこうなりました、というほかなく、はらはらと降り積もる雪、これはただの自然現象であり冬の北海道など日常風景でしかないはずのものですが、これを「踊り」としてプロの技術でもって表現するとこうなるのか、ということに改めて驚かされます。
さらにはこの場面の合唱もまた澄み渡ったハーモニーが響き渡り、わずか1、2分程度であっても強い印象を残します。バレエ公演ではしばしばオーケストラではなく録音が用いられますが、今回は生演奏に加えて合唱団も参加というフルスペック。音程が整った合唱の響きというのはこんなに聴いていて人を幸せにすることに驚かされます。これから新国立劇場の『くるみ割り人形』を観るという方はぜひ注目していただきたいです。

第2幕の舞台へはクララたちは気球で到着(という演出を初めて見ました)。スペインの踊り、アラビアの踊り、中国の踊りなどに続けて、あっという間に花のワルツ。ここで客席も一段と静まり返り、この場にいる誰もが期待していることが伝わってきます。この花のワルツはやはり雪の結晶と同じく整ったアンサンブルが見ものでしょう。それぞれがただ歩いて所定の場所に立つ、ただそれだけのことでありながら一挙手一投足に統一感があり、「揃う」というただそれだけのことがこれだけの美しさを浮かび上がらせるのかと思うと胸が熱くなります。

そして最後のパ・ド・ドゥ。これが終わると夢から醒めて現実に引き戻されるのだという一抹の寂しさすら湛えつつ、王子とクララの踊りが演じられます。この部分は誰が演じても私は見入ってしまい、今回の公演(柴山沙帆さん、速水渉悟さん)でも息の合った踊りを披露していました。重くなりすぎず、かといって軽々しいわけでもなく、夢の中の出来事であっても後年何度も思い出すであろう情景だ、とでも言いたくなるような、儚さを思わせるもの。

クララが目を覚ますと、ふたたび寝室に舞台は移ります。そして外へ走り出てドロッセルマイヤーと甥に別れを告げます。この場面が一層ファンタジックな気分をかき立て、素晴らしい作品を観たという充実感とともに終わるのでした。自分がバレエを好きで良かったと思える素晴らしい一時でした。