『白鳥の湖』『くるみ割り人形』と並びチャイコフスキーの3大バレエの一角をなす『眠れる森の美女』。意外にもNBAバレエ団はこの作品を上演したことがなかったらしく、2022年12月17日、18日に所沢市民文化センター・ミューズでの開催が初となった模様。
通常なら3時間はかかるところを、NBAバレエ団はうまくカットし2時間20分ほどにまとめ上げています。プログラムによると、「演出面と振付を一部変更し、よりスピード感を持った内容」となっており、「カラボスについては、プロローグでのオーロラ姫の死を告げるシーンや、デジレ王子と対峙する場面などがよりドラマチックになり、その存在感が強調されて」いるとのこと。
たしかにそのまま上演していると冗長になってしまい、途中で寝てしまいそうになるという弱点があるこの作品を上手くまとめるというのはお客さんを飽きさせないためにも必要なことでしょう。
『眠れる森の美女』はバレエの華やかな魅力がぎっしりと詰まっています。オーロラ姫の踊りは優雅で可憐そのもの。ただしポジションを厳格に守らないと美しく見えないらしく、難しい技術が詰め込まれているうえにほとんどの場面で出番があるためとにかくきついとか。なおかつ王女の気品と16歳というあどけなさも湛えていなければならないという、なんだか無理ゲー感が漂う役です。
私がNBAバレエ団による『眠れる森の美女』を観たのは12月17日の夜公演。これがまた観ているだけで幸せになれる素晴らしい公演でした。
NBAバレエ団の『眠れる森の美女』、高級感あふれる素敵な踊り
オーロラ姫を踊るのは勅使河原綾乃さん、このほかデジレ王子を宮内浩之さん、リラの精を福田真帆さん、カラボスは本岡直也さんが演じていました。
まずなによりもこうした主演級のキャストたちの踊りに過剰な気負いがなく、ナチュラルに舞台上で物語が紡がれていることに驚きます。どの部分をとってもメルヘンチックな世界が花開き、たとえば有名な「ローズ・アダージョ」など、ただ立っているだけなのに、気品とか優雅とかいった言葉を連想させます。王子から花を受け取って、べつの王子がまた花を渡す、これを受け取って次の王子が・・・、と短くまとめるとこれだけ。こんなシンプルな動きでしかないのに、巻き戻してもう一度見られないかと勝手に願ってしまうのはつまり「綺麗だったから」に他なりません。
デジレ王子の前に立ち塞がるカラボスもまた悪役とは思えない華麗な動きで目が離せません。結局はやられ役でしかないのに、一つ一つの踊りが美しい。これはバレエである以上当然といえばそうなのですが、ただ眺めているだけでため息が出てくるのはどうしてでしょう。
第3幕のデヴェルティスマンも、話の本筋とは直接的関わりがありませんがどれも「おまけ」というには十分な魅力があります。とくに青い鳥とフロリナ王女の清楚な魅力は心を洗われるようですし、長靴をはいた猫と白い猫のコミカルなペアはそのネコネコした動きにクスリとなります。
この猫らしい動きというのは、見るほうはラクでもやってみるとたぶん全然猫にならない、大変難しいもののはず(そうかな? とご不審のむきは自宅であの動きをマネしてみてください)。
オーロラ姫とデジレ王子のパ・ド・ドゥも圧巻の一言。「姫」「王子」と聞くとつい少女漫画チックな世界を想像しますが、そういうコテコテな世界観でありながらも完璧に作り込まれており、言うなればこの踊りは香り高いシャンパンを飲み干すときのような多幸感といった趣があります。
そして長い物語もやがてフィナーレへ。あの有名なメロディが流れて舞台上のすべてのダンサーが様々に踊りながら姫と王子を祝福し、幕切れとなります。年末が近づくとつい『くるみ割り人形』を思い浮かべますが、この豪奢な場面もまた1年の終わりを締めくくるにふさわしいもの。
2時間に及ぶ幸せな世界を破綻なく構築したNBAバレエ団の水準の高さはまぎれもないプロの技であり、もしなにか惜しむべき点があったとすれば、伴奏音楽が生のオーケストラではなかったこと位でしょうか。次にこのバレエ団で『眠れる森の美女』を再演することがあれば、ぜひまた足を運びたいと思いました。
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