うーむ怖ろしい。実に怖ろしい。

「八王子にUFO襲来 地球の電気を盗難か」

東スポにこう書いてあってもこれを信じてはいけません(わざと騙されて喜ぶのはOK)。同様に、「名古屋のナンバーワン焼きそば」とかいう看板を見かけたとしても、店主がそう言っているだけであって本当にナンバーワンの味わいかどうかを決めるのはお客さんですから、やはりこれも信じてはいけません。

もしあなたが国会議員になったとしても「衆議院を解散するつもりはない」、そんな総理大臣の発言を信じてはいけません。

多忙で体調を崩しても、「風邪に100%効きます」とかいう謳い文句の薬を飲んではいけません・・・、というか薬を売るときに「絶対に効く」とかいう表現を行ってはいけません。

このように、世の中にある「書かれている言葉」「誰かが言った言葉」というのは、その人がそう書いたり言ったりしているだけであって、事実を嘘偽なく公正中立に表現しているわけではありません(このブログもそうです)。同じ出来事でも朝日新聞と産経新聞では伝え方が違っていて、その結果として印象もまるで違うというのはよくある話です。

そんなことは大人になる過程で誰もがいつか気づくはず。

でも似たようなことが楽譜にもあるなんて・・・。


楽譜にそう書いてあるからといって鵜呑みにできない


ヘンデルの「ヴァイオリン・ソナタ第1番」を練習している私は楽譜にこう書かれてあったので書いてあるとおりに弾きました。

KIMG

誰だって書いてあるとおりに弾きますよね。私だってそうです。

しかしこの楽譜はIMSLPでダウンロードできる無料のもの。
実際にこの曲を人前で演奏する機会を得たため、さすがに無料の楽譜を自宅のプリンタで印刷したやつを使うのもどうかなと思い、ヘンレ版の楽譜を買い求めました。4,500円もしましたが、まあいいでしょう。

当たり前の話ながら、運指運弓の指示が違っているのはまあわかります。それぞれ別人が監修しているわけですし(IMSLPで拾ったほうはレオポルド・アウアー)、その人の手の大きさや指の長さ、流派によって弓の上げ下げ、ポジションチェンジのタイミングが異なるのは十分理解できます。

ところが、このヘンレ版で同じ箇所(第2楽章49小節め)に差し掛かると・・・。


KIMG0825 - コピー

ぇ。まるで違うんですけど。なにこれ。IMSLPで拾った側と、ヘンレ版と、どちらかが間違っていることを書いているんじゃないでしょうか。

私は先生に「こんなことになってるんですけど、どっちが正しいんでしょうか。ヘンレ版のほうが最新の研究結果を反映してるんじゃないかと思うんですけど・・・」と質問しました。
すると、
 ヘンレ版の表記がヘンデルの書いたオリジナルのもの。
しかしそれをIMSLPで見つけたほうの楽譜の表記のように弾く弾き方が当時から一般的であった。
この箇所は前から使っていた楽譜の通り弾いてよい。
というありがたい答えが返ってきました。ヘンレ版の楽譜にはそういう解説は何一つなかったので、もし先生に質問しなければ「お金を払って買ってきたありがたい楽譜だからこれが正しかろう」と思って書いてある通りに弾いてしまっていたでしょう。

しかし東スポだけじゃなくて楽譜も書いてあることをそのまま受けとめてはいけないなんて、油断も隙もない。バロック演奏の決まりごとをすべての演奏者が熟知しているわけではありませんから、知らずに書いてある通りに本当に弾いてしまった人がきっと世の中に何人もいるに違いありません。(これはヘンレ版が説明不足なだけだと思います。)