先日、このブログの「ヴァイオリンのこと」カテゴリで「人前で演奏する曲の楽譜はお金を払って購入したほうがいい」ということを書きました。

IMSLPなどのサイトでは著作権が切れた楽譜が無料で公開されていてダウンロードし放題です。
中には『パルジファル』の「前奏曲」のヴァイオリンとピアノ版とかいうマニアックな楽譜もあります。レコードがなかった時代は、大規模な管弦楽曲を楽しもうとするとそういう手段しかなかったのでしょうね。

お陰様で「タイスの瞑想曲」だろうが「チゴイネルワイゼン」だろうが「精霊の踊り」だろうが、演奏会で弾く曲は楽譜を買わなくてOK! 今度弾くのは「G線上のアリア」だけど、IMSLPにあるかな・・・。
見つけたぞ! ヨッシャー!!

・・・甘いですね。そうやって見つけた楽譜ってやっぱり怪しいんです。


ヴィヴァルディ『四季』の怪しい楽譜

「人前で演奏する曲の楽譜はお金を払って購入したほうがいい」と思い知らされたのは、ヴィヴァルディの『四季』の楽譜を見つけたことがきっかけでした。

ちょっとした機会に、「よっしゃワイ、ヴィヴァルディの「冬」でも弾いたれ! センスいいワイ( ´_ゝ`)フッ」と思い立ちました。
でも『四季』は「春夏秋冬」あり、全曲を通すと40分弱のボリュームがあります。しかし私が弾こうとしている「冬」の第2楽章は、わずか2分・・・。

2分の曲を披露するために40分の楽譜を買ってくるのって、なんだか不経済・・・。いや明らかにもったいないだろ・・・。

そして誰もがするように、私も当たり前のような顔をしてIMSLPで「冬」のヴァイオリンとピアノ版の楽譜を印刷しました。そんなに難しい曲ではないので割と簡単に「まあこんなもんかな」というレベルに仕上がります。

「ここまでできたからフレージングとかフィンガリングとか、不自然なところがないか先生に見てもらおう」とレッスンに持っていったのが運の尽き(いや、ラッキー!?)。

先生に「冬の第2楽章なんですけど・・・」と譜面台に楽譜を並べて、さあ弾こうかと思ったわずか1秒の間に「???」というリアクションをされました。いやまだ弾いてませんけど。江藤俊哉が弟子がまだ音を出さないうちから「違う!」と叱咤していたようなものでしょうか。え、俺ってそんなに上手くなったの?

違いましたね。楽譜が怪しさ満点で、見た瞬間に「この楽譜は不自然だ」と気づいたようです。

具体的に何がどう怪しいのか。とにかくスラーがやたらとたくさん書かれていて、バロック音楽でこういう指示が多用されているなんて、ありえないことだとか。察するに、当時の時代様式を頭に入れていない人が楽譜を書き起こしてみた的な雰囲気がモリモリだったようなのです。

有名な曲だからいろんな楽譜があるだろう、その中には無料のものもあるに違いないとセコいことを考えていた自分が馬鹿でした。

「楽譜は、たとえばモーツァルトならベーレンライター、ベートーヴェンならヘンレとか、定番ともいえる出版社があるのでそれを使ったほうがよい」。
何年も前に言われたことをもう一度クドクドと言われ、レッスンの時間を空費してしまいました。

「ヴィヴァルディの「冬」ならバラ売りの薄っぺらい楽譜みたいなのがあるはずだから、とにかくそれでもいいからもうちょっとまともなやつにしなさい」。

へいへい。でも『四季』って当時の大ヒット曲で、無断コピー楽譜みたいなのが欧州中にばらまかれてたんでしょ先生。

そんなことは言わなくていいので、私は「はい」と返事をしておきました。


*『四季』といえば忘れてはならないのがアーノンクールが録音したもの。古楽器演奏による「四季」の元祖であり、これをもってバロック音楽演奏の地平が切り開かれたといっても過言ではないでしょう。