最近ではIMSLPというウェブサイトでいろいろな楽譜を閲覧・ダウンロードすることができるようになりました。しかも無料だというのですからなんともありがたい・・・。著作権が切れている楽譜ですから当然といえば当然なのですが、「タイスの瞑想曲」とか「愛の挨拶」みたいな有名すぎる曲だけではなく、ヴィオッティとかローデとかのあまり知られていないような作品までずらりとそろっているのですから、クラシックのことを知りたければ知りたくなるほど重宝します。
ヴァイオリンを弾く私は、まさかそんなものはないだろうと思って『パルジファル』の「前奏曲」のヴァイオリンとピアノ版を探しました。
・・・ありました。そんな馬鹿な! でもあったってことは現実にそういう編曲が存在するということですね。
なぜそういうマニアックなものを探したのかというと、佐藤久成さんというヴァイオリニストがワーグナーの前奏曲などをヴァイオリンとピアノの編曲版のCDをいくつも出していて、しかもどれも個性的な演奏でつい自分も真似してみたくなった・・・、という事情です。アマチュアあるあるですね。
そうやっていろんな曲をIMSLPで調べてプリントアウト。これは面白い・・・。
のはいいのですが、その楽譜をそのまま自分が出演するときの演奏会で使うのはどうなんでしょう。
楽譜は買ったほうがいい説
私は、人前で演奏することになった曲の楽譜は、きちんと店頭なりアマゾンなりで購入するようにしています。
IMSLPの楽譜は著作権が切れている=古いというデメリットがあります。
ヴァイオリンの場合、楽譜に記された指づかいや弓づかいがかなり重要で、同じフレーズを演奏するときでも指とか弓の動きいかんによっては雰囲気が変わってきてしまいます。が、古い楽譜だと(ものによっては20世紀初頭の場合もある)、「現代なら絶対にこういう指づかいじゃないだろうな」という指示も。戦前の録音を聴いてみるとおわかりのように、とくにバロック音楽の音作りは現代と戦前~戦後まもなくの頃ではまるで違っています。一口にクラシック音楽といってもやはりその時代の演奏の流行り廃りとは無縁ではいられないようですね。
これと同じく、無料の古い楽譜を使っていると、時代遅れの音楽に仕上がってしまう可能性があります。それに、昔の楽譜って本当に信頼できるのでしょうか。実は私は昔、楽譜を輸入する仕事をしていたことがありますが、ドイツはともかくとしてイタリアとフランスの楽譜はけっこうミスプリがありました。このブログにも何度も書いた話ですが、ポーランドが国家プロジェクトとして推進していたショパンの「ナショナル・エディション」。取り寄せてびっくり。鏡文字。あきらかにミスプリです。「不良品だから交換してほしい」とメールするも、「正しいバージョンをPDFで添付しました。印刷して楽譜に挟み込んでください」。
21世紀ですらそういうことが起こっているわけですから、昔の楽譜は推して知るべし。
というわけで全音楽譜出版社とかベーレンライターとかの楽譜を私は毎回購入しています。
楽譜に使われている紙というのはけっこうしっかりしているもので、普通に本棚に保管しておけば数十年後も十分使えるでしょう(シャーペンで書き込むと消した跡が残るので、運指などの指示は2Bの鉛筆を使って記載すべきです)。
コピー用紙を使って印刷した楽譜ですとせいぜい5年くらいで紙が劣化してなんとも微妙な状態になっていくものです。そう考えると、多少の出費でもやはり人前で演奏する曲は楽譜を自腹で買ったほうがいいですね。
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