プチ・パレ? ああ、あのパリにあるやつね。はいはい、行ったことありますよ。ピサロとかゴーギャンとか、19世紀後半の作品がいっぱいあるやつでしょ。キレイだったな~。次にパリに行ったらたぶんまた行くでしょうね。あんた好きねえ? ほっといてください。

ぇ? 違うの?

違いました。SOMPO美術館で開催中のプチ・パレ美術館展は「スイスの」プチ・パレ美術館でした。
スイスのジュネーヴにあるプチ・パレ美術館は、19世紀後半から20世紀前半のフランス近代絵画を中心とする豊富な美術作品を収蔵しています。プチ・パレ美術館は1998年から現在まで休館していますが、今回、日本では約30年ぶりとなるコレクション展を開催いたします。

(SOMPO美術館公式サイトより)

1998年から現在まで休館・・・。1998年といえば長野オリンピック。クリントン大統領のスキャダル。長銀の破綻。W杯日本初出場。一応自分も高1くらいでしたが、断片的にしか覚えていないのでなんだかものすごく昔のことのように思います。

この美術館は工業用ゴムの製造で大富豪になったオスカー・ゲーズ氏によって1968年に創設されました。しかしゲーズ氏が亡くなった1998年からは、美術館は休館状態となり、各国の展覧会に出品協力を行ってきたとか。

この調子では私達が生きている間にこの美術館が再オープンするなんてのは望み薄ですね。で、
30年ぶりのコレクション来日? 次はいつ? まさかこのチャンスを逃すともう二度と見られない作品たちかも?

そう思うと急に焦り始めた私は新宿に向かいました。


佳品の数々がそろうスイス プチ・パレ美術館展

名前からして「グラン」じゃなくて「プチ」と謙虚なたたずまい。たしかにフェルメールとかラファエロのような大作はありません。でもいいじゃありませんか。ルノワール、カイユボット、ドニ、デュフィといった、フランスの一つの時代を象徴するような画家たちの作品が多数揃っているのですから。

たとえばジョルジュ・ボッティーニの「バーで待つサラ・ベルナールの肖像」なんて20世紀初頭のパリの空気感がものすごく良く現れています。この作品は1907年に制作されました。日本史で言うなら日露戦争が終わってまもなくのころ。国力を使い果たしつつもかろうじて大国ロシアと講和した日本。ほとんど同じ時期のパリの雰囲気はこういうものだったということが絵を通じて伝わってきます。

アンドレ・ロートの「ワトーへのオマージュ」は、ワトーが残した雅宴画をもとに当時最先端の表現(1918年制作)で再構築しました、といった雰囲気。100年前の「最先端」といっても抽象画にかなり近づいているので、22世紀の私達が見ても「なんじゃこりゃ?」という印象を受けるはず。

数年前には東京オリンピックのロゴのデザインが「盗用ではないか」との疑惑が払拭しきれず、大会組織委員会はロゴの撤回を決定したというできごとがありました。
この展覧会の作品を見ていると、1920年前後に発表された絵画のなかには東京オリンピックのロゴデザインと雰囲気が似ているものが複数あります。こればかりは実際に会場に足を運んで観ていただくしかありませんが、あのデザインというのは100年前には新しい表現つまり前衛だったようです。

ユトリロの「ノートル=ダム」はこたえました。ご存知のとおりパリのノートルダム大聖堂は2019年4月15日、原因不明の火災で大きな損傷を受け、現在も修復工事が続いています。そのノートルダム大聖堂の1917年当時の偉容が胸に迫ります。当時の大聖堂周辺の街並みも描かれており、歴史の証言者としての資料的価値もあります。

これらは100年ほど昔の作品であり、100年というと大昔のように聞こえますがNHKの映像ドキュメンタリーなどで大正末期~昭和初期の記録を見ていると(とくにAIでカラー化されたものだと)21世紀とそう遠くはない地続きの時代であることが実感されます。この展覧会に出品された絵画の数々も、当時の人々の様子に思いを馳せながら見ていると、ただなんとなく眺めているだけでは味わえない感慨に浸ることができました。

「もう次はない」「これで最後かもしれない」そういう気持ちを胸に作品を鑑賞していると、本当に気合が入ります。しかしながら、次回があることを切に祈ります!