私がキャサリン・ジェンキンスさんのCDを初めて手に取ったのは2008年のこと。
当時の私は仕事の都合で北九州へ3ヶ月ほど「このプロジェクトで人手が足りないから」と急遽派遣されホテル暮らしに。毎日かなり疲弊していました。

そのとき、そうあれは小倉のCD店だったでしょうか、キャサリン・ジェンキンスさんの『Living A Dream』というアルバムを買い求めたのがきっかけでした。夜遅くまで仕事をして疲れ果てた体に、「L'Amore sei tu」の包み込まれるような声が優しく響くこと・・・。これがきっかけで、彼女の声によく耳を傾けるようになりました。

音楽というのは生演奏で聴いてこそきちんとした鑑賞が可能になるもの。私はそう思っていましたが、イギリスを拠点に活躍している彼女のこと、まさか来日公演なんてそうそうあるはずもない・・・。

とおもいきやまさかの2022年来日公演。私も渋谷のオーチャードホールに駆けつけました。結論から言うと、期待にたがわず素晴らしい一夜となりました。

(追記:調べてみたところ過去にも何度か来日していました。つまり私のアンテナが低かっただけでした!)

圧巻かつ包み込まれるような深い歌声

音楽のクオリティとは別問題で、渋谷のオーチャードホールという場所がいかにもピタリとはまっています。LINE CUBE SHIBUYAでもなく、NHKホールでもなく、また在京オーケストラの定期演奏会が数多く開催される東京文化会館やサントリーホールでもなく。今回はミュージカルのナンバーや映画音楽に歌詞を付けたものが曲目のほとんどであり、このコンサートの雰囲気を考えるとやはりオーチャードホールがふさわしいと言わざるを得ません(ロックバンドのライブやオペラ、バレエ、クラシックなど一通り経験された方は大体同意していただけると思います)。

この日のコンサートは歌劇「ペンザンスの海賊」序曲(東京フィルハーモニー交響楽団)で始まり、キャサリン・ジェンキンスさんは2曲め「ワールド・イン・ユニオン」から登場します。そして「メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス」。この流れはウクライナ情勢を意識し、次いで「日本のみなさん、こんにちは!」といったところでしょうか。

この後は「シネマ・パラディーゾ」や「ムーン・リヴァー」といった有名映画音楽が続きます。そしてほぼ純粋なウェールズ系(ご本人談)でありながらもアイルランド民謡の「ダニー・ボーイ」をしっとりと歌い上げるではありませんか。思い出すのは、昔見たあの映画、この映画・・・。私を泣かせないでください。

プログラム後半も「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」「愛のテーマ」(ゴッドファーザー)など有名な曲がずらりと並ぶ豪華なもの。私個人としては「ルール・ブリタニア」とか「イェルサレム」とかがあれば言うことなしなのですが、ここは日本ですからプログラムに載らないのはまあ仕方ないですね。

私が彼女を知るきっかけとなった「L'Amore sei tu」(オールウェイズ・ラブ・ユー)ももちろん歌われます。録音当時からかなりの年月が経過していますが当時も今も安定のボーカル。
そしてアンコールに「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」が歌われました。

いやはや、これだけ誰もが知ってる有名曲を並べられてしまうと、CDと同じ声(当然か)でありながらもその上手さに降参するほかないでしょう。なにしろ音程にブレがなく、音楽を盛り上げる抑揚もドラマチック。聴いていても飽きが来ない柔らかな声質。ミュージカルや映画音楽などを演奏するうえで必要なものはすべて揃っています。客席ではスタンディングオベーションが沸き起こっていましたが私も大いに納得の2時間でした。この日、オーチャードホールに来ることができた方はきっと満足して帰路についたことでしょう。

できることなら来年、再来年とこれからもぜひ定期的に来日してほしいところですが、こればかりはやはり知名度がカギ。ユニバーサル・ミュージック・ジャパンにはCDのプロモーションになお一層力を入れていただきたいです。