バレエの中でひときわ有名な作品といえばチャイコフスキーの『白鳥の湖』です。
他にも『くるみ割り人形』や『眠れる森の美女』などとあわせて3大バレエなどと言われているものの、「情景」のメロディほどあちこちで聞かれるバレエ音楽はないでしょう。
必然的にCDも山のように発売されています。いったいどれを選べばいいのか・・・。
私は、レーグナーが残した録音を推薦します。単に『白鳥の湖』の名演奏というだけでなく、たくさん発売されているバレエ音楽を収録したCDのなかでも抜きん出て迫真性ある素晴らしいものです。
レーグナー盤『白鳥の湖』、真に迫る演奏
ハインツ・レーグナー(Heinz Rögner、1929年1月16日 - 2001年12月10日)。もう没後20年以上経過している指揮者なので、彼の名前を知る人も少なくなってきました。
いや、一応知られてはいても彼が残したブルックナーやワーグナーの録音に光が当たることすらなくなりつつあるのかもしれません。
とはいえ東ドイツ出身の名指揮者であった彼は1983年4月から1992年3月には読売日本交響楽団の第5代常任指揮者を務めており、このオーケストラは彼の指導のもと緻密なアンサンブルやしなやかさを獲得することになります。
そのレーグナーが残した『白鳥の湖』は、何がどう素晴らしいのか? というと「バレエ」という範疇を超えて一つ一つの音色にドラマを込めていることがうかがわれる、真に迫った演奏であることが真っ先に挙げられます。
正直な話、バレエの実演に接していると演奏が退屈だと感じることがあります。そりゃそうですよね。だって、テンポを途中で変えたりしたら踊りにくくて仕方ありませんもの。
その点、レーグナーの場合はバレエの伴奏というよりも純然たる管弦楽曲とみなして演奏しており、沈み込むようなピアニッシモから威圧するようなフォルテシモまで、また曲のクライマックスでテンポを落としてスケール感を出したりなど、物語の悲劇性が際立つようにオーケストラを指揮しています。
たとえば「序奏」「情景」「終曲」など、もはや踊りの伴奏というよりもチャイコフスキーの交響曲の一部のように響きます。これを他の指揮者の録音と比較してみると、一つ一つのフレーズをどれだけ丁寧に気持ちを込めて、かつ整ったアンサンブルを意識して音楽を構築しているかが分かろうというものです。
しかし一体、なぜここまでクオリティが高い『白鳥の湖』の録音が可能だったのか・・・。
ヒントはCDジャケットの裏にありました。
録音は東ベルリンで行われていたようです(ベルリン放送局SRKホール)。1981年11月12日、そして16日から25日、さらに1982年3月(日にち不明)に改めて録音と書かれていました。
最近のオーケストラは普通、1回の本番前に2日程度のリハーサルが設けられています。
『白鳥の湖』も有名な曲なだけに、プロのオーケストラならその程度の日数があれば十分仕上がるはず・・・、ですがこの録音に費やした日数はそういうレベルではありません。
これは良くも悪くも、採算性というものに対する意識が薄かった東ドイツ=社会主義国家でああったからこそ可能だったことであり、もしレーグナーが資本主義の国のレコード会社と契約していたらこのCDは存在しなかったはずです。
アマゾンではやけに高い価格がついていますが、廉価盤としてもたびたび再発売されているため、日本でもかなりの数が流通しているはずなので、運がよければブックオフなどで数百円で手に入るでしょう。現に私も2022年8月、札幌すすきののブックオフで330円で見つけました。もちろん即購入です。
(注:この『白鳥の湖』は全曲版ではなく、45分ほどの抜粋版です。)
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