経済産業省が取りまとめた「未来人材ビジョン」という提言があります。

資料は
で読むことができます。

2050年というと私が生きているかちょっと自信がありません。とにかく古い日本型雇用システムから脱却すること、好きなことに夢中になれる教育に転換すること、これが大事だと言いたいらしいのですが、読んでみると・・・、言ってることはそのとおりですが具体的に「誰がどのようにしてそれを実行するのか」ということを想像すると、「こりゃ無理だろう」という気がしてきて、逆に日本の未来はお先真っ暗だという気がしてきました。

今から100年前、アルゼンチンは日本より豊かだったというと愕然とする人も多いでしょう。でも2100年の未来人は、日本はメキシコより豊かだったと知ってびっくりしてるかもしれません。でもきっとそんな感じになってるでしょうね。

で、私は具体的に資料のどこに注目して、どう思ったのかというと・・・。


「未来人材ビジョン」に見る日本の将来性のなさ

スライド10枚目「生産年齢人口は、2050年には現在の2/3に減少する。」
2020年、約7,400万人いる生産年齢人口は2050年には約5,300万人になるようです。日本の人口は2022年現在、1年で60万人の人口減少ですから、まあ当然です。人口が減っていく一方で、労働者の占める割合が減って老人が増えるのです。そのスピードは年々早まっています。こりゃ将来性ないわ。


スライド11枚目「日本は、高度外国人から選ばれない国になっている。」
そりゃそうでしょう。だっておしなべて長時間労働・低賃金ですもの。これを改めるのは・・・、一企業の努力ではどうにもなりません。当然、私やあなたが全力を振り絞っても何も変えられません。


スライド21枚目 「労働需要の推計に当たっては、2つのシナリオを仮定した。
「高成長シナリオ」
・・・ デジタル化と脱炭素化が進展し、高い成長率を実現できると仮定
「低成長シナリオ」
・・・ デジタル化と脱炭素化が停滞し、高い成長率を実現できないと仮定」
低成長に決まってますがな。ここ30年間の日本を見てください。これまでずっと低成長だった日本が、高成長国になるなんて絵に描いた餅ですよ。


スライド27枚目「産業界と教育機関が一体となって、今後必要とされる能力等を備えた人材を育成することが求められている。」
産業界と教育機関が一体となって・・・ってどこの世界線でしょうか。いつも就職活動の時期を巡ってお互い足の引っ張り合いをしてるじゃありませんか。そもそも、教育機関は産業に貢献しなければならないのでしょうか?


スライド32枚目「2021年~ (経済の)再生期」
スライド33枚目に「日本企業の従業員エンゲージメントは、世界全体でみて最低水準にある。」と書かれているので(書いたのはあなたです)、そんな国で経済再生など不可能です。それとも2021年に最低水準だったエンゲージメントが、2022年から突如として爆上がりすると思ったのでしょうか?


スライド34~36枚目「「現在の勤務先で働き続けたい」と考える人は少ない。しかし、「転職や起業」の意向を持つ人も少ない。日本は、課長・部長への昇進が遅い。日本企業の部長の年収は、タイよりも低い。」
退職金が支払われることになっている会社で働いている場合、その計算方法は就業規則に明記されているのでぜひチェックしてみてください。この退職金というのは賃金の後払い的性格を持つものです。計算式を見れば分かる通り、長く働いて定年退職すると有利だが、途中で自己都合退職すると一気に減額されてしまう仕組みになります。そりゃ現状に不満があっても転職に二の足を踏みますわ。それに、転職したら年収ダウンのリスクもありますしね。これが労働力の移動にあたって足かせとなっていることは間違いないでしょう。

でも退職金制度を改めたり、廃止したりするのは不利益変更のおそれがあるので労働組合との交渉が必要になります。しかも、他の労働条件とくらべて退職金は労働者への影響が絶大なだけに、たとえ変更するとしても「変更前に在籍している従業員には適用しない」のようになる可能性は大きいです。つまり、硬直的すぎて誰にも変えられません。ちなみにアメリカの会社には普通、退職金なんてありません。嫌なら辞めていくまでです。それで衰退産業から成長産業へ労働者が移動していくんです。


スライド40枚目「企業は人に投資せず、個人も学ばない。」
スライド41枚目「日本の人材の競争力は下がっている。」
スライド49枚目「日本の国際競争力は、この30年で1位から31位に落ちた。」
だから2021年から経済再生期にならないんですよ。


スライド50枚目「この現実を直視するなら、企業にはいま、雇用・人材育成システムの
聖域なき見直しが求められているのではないか。
具体的には、終身雇用や年功型賃金に代表される「日本型雇用システム」と
社外との接続領域である「採用戦略」をどうするか、である。
既に一部の企業では、相当程度変わってきた現実もあるかもしれない。
しかしまだ十分ではない。変化を、加速させる必要がある。」
昔聖域なき構造改革とかいうフレーズが流行りましたが、生活実感として何かが変った気がしません。今回もきっと、変化は加速しません。


スライド71枚目「新たな未来を牽引する人材が求められる。
それは、好きなことにのめり込んで豊かな発想や専門性を身に付け、
多様な他者と協働しながら、新たな価値やビジョンを創造し、
社会課題や生活課題に「新しい解」を生み出せる人材である。」
そんな勇者、滅多にいません。滅多にいないから勇者なんです。次世代に期待しすぎだろ。お前の学生時代を振り返ってみろ。


スライド78枚目「身近な校則を論理的に作り直す活動の広がりも、
既存のルールや常識を疑い、作り直す力を育む機会となる。」
既存のルールや常識を疑い、作り直す・・・って、同調圧力が滅茶苦茶高いのが日本だとこの2年でみんな嫌というほど分かっただろう。そんなクソ文化の国だという現実をまずは直視してください。国民は長い歴史を経て培われた文化に勝てません。断言します。


スライド97枚目「これから向かうべき2つの方向性を示したい。
旧来の日本型雇用システムからの転換
好きなことに夢中になれる教育への転換」およびこれ以降のスライド
都知事選の公約みたいだ。できもしないことをよくもペラペラと。


・・・と、読み進めるにつれて「現実はぜったいこの通りに行かないだろうな」という気がしてきました。似たようなレポートは過去にもたくさんあったはずです。で、現実には何が起きましたか? 「日本の国際競争力は、この30年で1位から31位に落ちた」んですよね。これがすべてです。