2022年5月24日(火)のスポーツ報知ではこのように報道されています。
フィギュアスケート男子で、3月の世界選手権で金メダルを獲得した宇野昌磨(トヨタ自動車)が24日、音声配信サイト「Now Voice」で来季のフリープログラムの曲名について「G線上のアリア」と発表した。また、宇野によると、フリーはもう1曲、別の曲を組み合わせたプログラムになっているというが、「そっちはなんか発音が難しいから『言わなくていい』って言われました」とコメントした。
「G線上のアリア」はバッハの有名な曲ですね。どんな曲なのかさらっと振り返ってみましょう。
バッハの「G線上のアリア」、どんな曲か
音楽の父とも言われるバッハ。ヨハン・セバスチャン・バッハ(1685-1750)のことです。
彼の業績はこれまでのヨーロッパの様々な音楽たとえばベルギーやフランス、イタリアなど各地の音楽の様式を吸収し、いわゆるバロック音楽を集大成する作品群を生み出したことにあります。
バッハ(Bach)はドイツ語で「小川」という意味を持ちますが、「バッハは小川ではなく大海である」と評したのはベートーヴェン。彼がいなければ次世代を担ったモーツァルトもハイドンもベートーヴェンも十分活躍できていなかったはずです。
彼は生涯におよそ1,000を越える作品を発表しており、そのおよそ4分の3はカンタータやコラールなど宗教曲です。教会というものが人々の暮らしのなかに大きな位置を占めていたかが伺われますね。
協奏曲や管弦楽曲は30曲ほど。このうち『管弦楽組曲第3番ニ長調 BWV1068』の「アリア」を、のちの時代のウィルヘルミというヴァイオリニストがヴァイオリン1挺で演奏できるように、しかも4本弦があるうちの最も低い音を出すG線だけで弾けるように編曲しました。
これが「G線上のアリア」です。
大河の流れすら思わせるような深い情感が湛えられたこの曲。
原曲の「アリア」は、昭和天皇崩御の際には多くのテレビ局がこの曲を流し、また9.11同時多発テロののち、世界各地で開かれた追悼演奏会でもやはり多く演奏されています。
管弦楽曲版はこういう響きです。
これをヴァイオリンとピアノに編曲して生まれたのが「G線上のアリア」。
この動画で演奏しているのは髙木凜々子さん。新進気鋭のヴァイオリニストです(東京を中心に精力的に演奏活動をしているので機会があれば是非どうぞ)。
原曲ではそういう指示はないのですが、編曲されたほうの「G線上のアリア」は、文字通りG線で演奏しなければなりません。
ヴァイオリンは音の高い方からE、A、D、G(ドイツ語読みでエー、アー、デー、ゲー)という弦が張られており、最も低い音を担うG線一本でこの弦が得意とする低い音から、演奏する側にもかなり酷な手の動きを求められる(楽器本体に手を密着させて指を伸ばさなくてはならない)高い音まで表現しなくてはならず、油断していると音を外してしまいます。
私自身もこの曲を演奏できなくはないのですが、有名な曲だけにミスるとすぐにバレてしまう恐ろしい曲です。しかし客席をチラと見るとお客さんは寝ていたりするので、「弾く側は苦しいが聴くほうは寝ていてもOK」という、弾く人と聴く人の非対称性がこれほどはっきりした作品もないでしょう。
あまりに有名な曲なだけに、色んなところでパクられています。(オマージュ??)
たとえばプロコル・ハルムの「青い影」。
ドラクエIIの城の音楽もまさに「G線上のアリア」の影響・・・、というか明らかにすぎやまこういち先生は意識していますね。
宇野昌磨選手はもう1曲、「フリーはもう1曲、別の曲を組み合わせたプログラムになっている」ものの発音が難しいことを理由にまだ公表していません。バッハの音楽は20世紀になってもなお様々な作曲家に参考にされているだけに、ある意味どんな曲でも受け止めることができるだけの広さを備えています。
もう1曲がジャズだろうとロックだろうと、何が来ても「なるほどね」とうなずく組み合わせになっていることはなんとなく想像ができますね。
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