同僚のネクタイがださい。そう気づいてしまったあなたは、かえってその同僚のことが気になるでしょう。いかに彼のネクタイがださいか。毎日同じやつだったり、シャツの色と合っていなかったり。無意味に派手でそこだけハメコミ合成みたいだったり。

私の偏見ながら、こういうださいネクタイをする人は理系出身だったり、文系出身でも専門職だったり。要するにファッションに無頓着でもべつに問題ないやと思っているのでしょう。たしかにネクタイがかっこいいからといって仕事のパフォーマンスに影響するわけではありませんからね。

・・・って、そういう発想だからネクタイがださいんですけど・・・。

こんな話があります。これはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターを務めたこともあるライナー・キュッヒル氏のある日のできごと。
キュッヒル氏は11歳という遅い年齢からヴァイオリンを始め、それからというものはこの楽器一筋で生きてきたので自分でネクタイが締められない、ドライバーや金づちの使い方を知らない、家族から「この手紙を郵便に出しておいて」と頼まれたら、自宅の郵便受けに入れたという仰天エピソードの持ち主です(すべて奥さんの著作より)。

ことベートーヴェンやブラームスの演奏においては世界一流であってもプライベートのファッションセンスが無茶苦茶だとか。

色にも無頓着ですので、棚の一番上にあるものや一番近いハンガーに掛かっているものを取って着ています。ワイシャツや、ネクタイの色と背広と合おうが合うまいが、夫にとってはどうでもよいことなのです。

ある日どこかの招待が入っていたのに、夫の着る洋服を揃えるのを忘れて私が用事で先に家を出てしまったことがありました。招待先に行く前に、夫とカフェーで待ち合わせをしたのですが、そのカフェーに突如、チンドンヤさんのようなおかしな服装をした人が入ってきました。それはまさに自分の夫だったのです。

(キュッヒル真知子『青い目のヴァイオリニストとの結婚』より)

自分の夫がくいだおれ太郎の格好で現れたらそりゃ仰天しますわ・・・。

ここまでのレベルになるともはや武勇伝ですが、ここまで行かなくてもネクタイがださい同僚というのは結局のところ「あ、自分のネクタイってイケてないんだ」と自覚しなければ変わることはないでしょう。人は他人を変える力など持っていないのですから。


人は他人を変えられない

カナダの精神科医エリック・バーン氏は、「過去と他人は変えられない。あなたが変えられるのは自分自身と未来だ」と言っています。
ただし、もしどうしてもその同僚のネクタイがダサくて気になるというのであれば、こりゃもうあなたがイケてるネクタイを無料で提供してあげるしかないでしょう。
ただネクタイというのは着ているシャツとかスーツの色や素材との組み合わせでかっこよくも見えたり、ちぐはぐなイメージになったりしますから、あまり奇抜なデザインや色合いのものは着こなしが難しく避けたほうが吉でしょう。

最近では楽天とかアマゾンでこういうまとめ買いがお得になりました。
これで「ごく普通」のネクタイを選んで、ごく普通に白のワイシャツと合わせればださい男も理論上は普通の男になれるはず。


ただ・・・。
無料で提供というのもありがたみが出ないのでぞんざいに扱われることを覚悟しなければならないでしょうね。
昔、ミシュランガイドは無料で配布されていました。高級レストランがこれでもかと掲載されている、あのミシュランガイドです。ミシュラン兄弟はこれで人の移動が促進されれば本業であるタイヤ市場も成長するわけですから、いい投資だと思っていたのです。
それでミシュランガイドがどんどん普及していくわけですが、あるときミシュラン氏が修理工場に立ち寄ると、作業台の脚代わりに使われているのを目撃します。これに激怒したミシュラン氏は、以後ミシュランガイドを有料にしてしまいました。ところがかえって読者からは大事に扱われるようになり、ガイドブックとしての権威が高まるきっかけになったのでした。

つまりは「無料のものはありがたくない」のです。あなたがプレゼントしたネクタイも雑に使われるかもしれません。もともとそういうセンスだからネクタイがださいことに無自覚なんですねきっと。

以上のことを念頭に、それでも同僚のネクタイがださくてなんとかしたいと思っている方は頑張ってください・・・。