アムステルダムの中心部、父オットーが経営する会社の隠し扉を抜けると、アンネ・フランクたち8人が潜んでいた隠し部屋に入ることができます。
ここに2年あまり潜伏生活を続けるも、最後は密告により秘密警察に捕らえられ、やがてオットーを除く全員が強制収容所解放のときまでに命を落としています。
しかしアンネが書き残していた日記は潜伏生活の支援者により回収され、戦後オットーへ手渡されることになります。オットーは娘の日記の出版を決意。『アンネの日記』は、差別や平和の尊さ、人間の尊厳やみずみずしい少女の感受性など、様々なメッセージを現代に生きる私たちに伝えています。
それにしても、密告者とは誰だったのか?
『アンネ・フランクの密告者』は、アムステルダム在住のユダヤ人、アーノルト・ファン・デン・ベルフという人物が、自分の家族を守るためにフランク一家をナチスに「渡した」可能性があると指摘しています。
こうして迷宮入りの事件はかなりの部分に光が当てられた・・・。そう思ったのも束の間でした。
『アンネ・フランクの密告者』回収か
この本はハーパーコリンズというイギリスの出版社が版元ですが、BBCニュースによると
この「発見」につながった調査は、アメリカ連邦捜査局(FBI)の元捜査官が主導し、現代の調査技術を駆使しながら、6年をかけたという。
しかし、第2次世界大戦の専門家や歴史家などは今回、調査結果は精査に耐えられないものだと、報告書で指摘した。
ユダヤ人グループもこの書籍を非難しており、欧州ユダヤ評議会は、英語版の販売中止と回収を出版社ハーパーコリンズに強く要求。この本がアンネ・フランクの記憶やホロコースト生存者の尊厳を傷つけるものだと批判した。
専門家チームは報告書で、書籍調査は「アマチュアによるもの」だと指摘。「調査が示す大きな批判について、重要な証拠は何もなかった」と結論づけた。
出版元のアンボ・アンソス(オランダ)は現在、この書籍の販売を中止し、書店に返本を求めている。また、書籍内で批判された人々に「深くおわび」した。
一方、ファン・デン・ベルフ氏の孫娘は、ハーパーコリンズに対し、英語版の販売を中止するよう求めた。
「この本によって出版社はアンネ・フランクの物語を搾取し、歴史を偽って書き換え、大きな不正義に寄与している」
BBCはハーパーコリンズにコメントを求めている。
書籍の調査チームは以前、調査内容は正しいと主張するとともに、完全な真実を明らかにしたわけではないと話していた。
(https://www.bbc.com/japanese/60843729より)
とあります。
時事通信社記事にも
22日にオランダで発表された歴史家らによる報告書は、この調査結果について「おしなべて根拠薄弱、明白な誤読が幾つもあり、誇張も加えられ、評価対象になり得ない」と厳しく批判した。出版社は「報告書に基づき、直ちに販売中止を決定した」と述べた。(https://www.jiji.com/jc/article?k=2022032300391&g=intより)
と書かれています。
私も『アンネ・フランクの密告者』を読みましたが、根拠薄弱でずさんな調査だったと感じませんでした。
なにしろ本文だけで420ページに及ぶボリューム。それもそのはず、調査には6年を費やしています。そもそもナチス関係の史料は世界各国に分散して保存されており、例えばアメリカ、イギリス、ドイツ、オーストリアはまあ当然としてカナダ、ロシア、さらにはイスラエルまで。これらの公文書館や研究所に史料閲覧申請を出して、複数の史料を横断的に解釈してという作業は気が遠くなります。
さらに当事者の家族にインタビューをしたうえで、人間関係(ユダヤ人潜伏場所やナチス協力者)の居所をアムステルダムの当時の地図にプロットしてみたり、AIでそういう人の関連性の強さを分析したり・・・。
こういうプロジェクトに関わったのは、たとえば以下のような顔ぶれ。
元FBI特別捜査官
犯罪学者
歴史学者
法科学者
データサイエンティスト
考古学者
行動心理学者
文書館員
アンネ・フランク財団の歴史学者
筆跡鑑定家
文書鑑定家
など。
アンネ・フランク財団の歴史学者を含む、こうした複数の専門家(当然、修士号や博士号を取得しているのでしょう)が関与した調査でありながら、「ずさん」とは何事でしょうか?
ニュースを読んでいて引っかかるのが、
しかし本が出版されると、多くの人から批判が上がった。スイスを拠点とするアンネ・フランク基金は、この調査は「間違いだらけ」だとスイスの報道機関に述べた。(https://www.bbc.com/japanese/60210701より)
じつはアンネ・フランク基金はアンネ・フランク財団(どちらもオットーが設立)はお互い折り合いが悪く、何度も訴訟を起こし、著作権をめぐる争いを続けています。
アンネ・フランク基金が「間違いだらけ」と主張しているのは、そうした長年のいさかいも背景にあるのでしょうか?
NHKによると
アムステルダムにある博物館「アンネ・フランクの家」は「価値のある、新しい重要な情報と、興味深い仮説を生み出した」とする声明を発表し、真相に迫る調査結果として関心を集めています。(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220118/k10013436051000.htmlより)
「アンネ・フランクの家」は、アンネ・フランク財団が管理しています。
つまり、
アンネ・フランク財団:調査を「価値あり」と評価
アンネ・フランク基金:調査を「間違いだらけ」と批判
という構図になります。
もしかして、これはお互いの組織のつばぜり合いであって、「調査はアマチュアのもの」という報告書のも特定の立場を確保しようとする人の意向を受けただけじゃないのか? あまりに的を射た指摘なだけに、いっそのこと口をふさいでしまおうと考えたんじゃないのか? という疑問が生じてきます。
さて、日本語版である『アンネ・フランクの密告者』は、今後回収されるのかされないのか・・・。(客観的根拠のある抗議が来ない限り、回収されないとは思いますが。)
いずれにしても不幸な争いであることは間違いないでしょう。
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