仕事柄、私立大学に出入りすることがしばしばあります。
都内のとある大学の職員として働いている田島さん(仮)に久しぶりに会ってみたら、「入試手当」というものの計算でえらい目に遭って憔悴していました。

話を聞いてみると、一応ボーナスという扱いにはなっているものの、そりゃ嫌になるわというとんでもない手当なのです。

この入試手当、毎年負担した作業量に応じて一人あたり10万~30万円程度支給されることになっています。
ところがこれがわけのわからない制度で、計算する人は大変苦労することになります。

たとえば「国語問題を作成したら100万円」というルールで、その金額を作問担当者の貢献度に応じて支給。もしA先生が全体の作業量のうち、5%の貢献度なら5万円といった具合に。
さらに採点手当というものもあり、答案1枚採点したら500円ぐらいもらえるらしいのです。答案が300枚あるなら15万円が支給総額となり、やはり貢献度に応じて分配されます。さっきのA先生が採点に10%貢献したとすると1万5千円もらえることに。

この時点でA先生は5万円+1万5千円=6万5千円もらえるということになります。

しかし入試といっても一般入試のほかに編入学試験、AO入試、推薦入試、帰国生入試、大学院入試、さらには大学入学共通テスト出勤に対して発生する手当というものもあります。

ということはそれぞれの試験について貢献度を調べる羽目になります。したがって複数の入試について5万円とか1万5千円とか、何回も掛け算や足し算を繰り返すことに・・・。

この学校に先生が1人しかいないなら楽なのですが、実際には数十人~100人以上がかりで入試を行い、なおかつ貢献度も先生ごとにまるで違っているのが実情です。
そうなってくるともう計算手順が複雑すぎて、手に負えないようなものになってくるのは想像するまでもありませんね。
毎月の給与は一度設定してしまえば、あとは残業代などの部分が変わるだけ。「変わる部分」を毎月入力していけばそれで計算はOK。入試手当の場合、「変わらない部分」というのはそもそも存在しないので、あらゆる箇所を計算しなければなりません・・・。

ここまで計算するだけでも大変なのに、入試手当は職員にも支給されるので先生と似たような計算を「もう一度」行うことになります。

そして田島さん(仮)の大学は「入学検定料の3割を上限とする」というルールがあります。
たとえば検定料収入が1億だとすると3千万円がみんなに分配できる金額の最大値。
入試手当を計算していった結果、総額が4千万円だとすると、それを3千万円に収まるように調整しなければなりません。この場合はボーナス25%カットということになります。

でもこれってえげつない話ですよね。だって、毎年子供の数は減っているわけですから、受験生だって毎年少なくなるのが当然です。

すると「こんなに苦労したのに、なんでボーナスが25%もカットされたんだ!」というクレームがいろんな人から殺到してくるのです!! 計算した田島さん(仮)はその矢面に立つ羽目になります。田島さん(仮)は制度を作ったわけではなく、ただ末端のスタッフとして計算しただけの立場なのに、気の毒・・・。


田島さん(仮)はいいます。
「なんで10万とか15万くらいのお金のためにここまでわけのわからない計算をしなければいけないのか。なんで大した金額でもないのに、”安い”とか”高い”とか、ケチくさい争いが勃発するのか。みんなお金がスキなんだなあ・・・」
すごく冷ややかな口調でした。

田島さん(仮)はお金がからむと人がガラッと変わる様子を、給与計算に携わってからというもの何度も見てきたそうです。そしてとうとう人間そのものが嫌いになってしまったようです。

人間嫌いというのは、私と同じじゃないですか・・・。田島さん(仮)に思わず親しみを覚えてしまいました。