中学生、高校生のケースとしてたまに耳にするのが眠れないまま朝を迎えた、それで学校に行くのが辛い。

私の職場のパートさんの息子さんは中2ですが、床で寝たり、夕方など中途半端な時間に寝たり、それで夜寝るのが結果的に遅くなったり、早起きできなかったり。

人間というのは・・・、いや人間以外の生き物は「眠る」ようにできています。
イルカの場合、脳が半分ずつ眠るとか。寝る時間になると、さっきまで1つの脳だったものが、半分は眠り、残り半分の脳でいきていくための行動をしているのだそうです。器用だな!

しかもこれができるのはイルカだけではなくて、鳥も同じようです。

でもなんで我々人間は、夜にぐっすり眠ることに時折困難を感じるのか。

どうして眠れないまま朝を迎えて、学校に行くのが辛いと感じるのか。
もしかして眠れない自分は劣等人種なんじゃ・・・。そう疑う人もいるかもしれません。

いえ、そうじゃないんです。人体の不思議というのは実に奥が深い・・・・。

眠れないということの奥深さ

カリフォルニア大学バークレー校教授・マシュー・ウォーカー氏の著作『睡眠こそ最強の解決策である』という本を読むと、睡眠がなぜ生き物にとって必要なのか、逆にこれが不足しているとどのようにパフォーマンスが低下していくのかが解き明かされていました。

中高生が、朝学校に行くことの困難さについてももちろん分かりやすく説明されています。

小さな子どもは、体内時計の周期=概日リズム(これをサーカディアンリズムといいます。大人の場合、周期は24時間よりも少し長い25時間です。)が大人よりも早いので当然親よりも早く眠り、早く目が覚めるのです。

ところが思春期を迎えると、サーカディアンリズムに変化が生じます。これは文化や地域にかかわらずすべての思春期の子どもに共通することで、リズムを司る体内時計が一気に進み、一時的に親の時計を追い越してしまいます。

そうなると親が眠くなる夜11時頃になっても子どもは全く眠気を感じることがなく、さらにその数時間後にようやく眠くなるのだそうです。

マシュー・ウォーカー氏は分かりやすくこれをたとえます。
それでもまだピンと来ないという親御さんのために、こう説明しよう。10代の子どもにとって、夜の10時に寝るというのは、あなたにとって夜の7時か8時に寝るのと同じことなのだ。
(中略)
ちなみに、子どもにとって朝の7時に起きることは、あなたにとっての(注:親にとっての)4時起きか5時起きと同じことだ。

つまり、これをお読みのあなたが「夜、眠れない」「それで朝学校に行くのが辛い」と感じるのは、生活がだらしないからではなくてそもそも思春期の人体はそのように設計されているからなのです。

このリズムのずれは成長すると自然と巻き戻されて親と同じくらいになり、かつて中高生だった人がやがて大人になると、サーカディアンリズムが自分とシンクロしていない子どもにイライラするというわけです。

なぜこのようなズレが生じるのか、マシュー・ウォーカー氏は一つの理由を紹介しています。

それは、思春期の役割を考えればごく当然のことですが、親からの独立を果たすための状態に移行してゆくためだそうです。つまり寝る時間が親よりも遅くなるのは「自然が授けてくれた、親と離れる手段」なのだとか。なるほど・・・。

自然は賢いので、親よりも数時間だけ遅くまで起きているという安全な方法で、独立する道を用意してくれた。親の庇護から完全に離れるわけではない。ただ完全に大人になる前に、親の目を離れる経験をするだけだ。もちろんそこにはリスクもある。しかし、依存から独立への以降を避けることはできない。そして独立の第一歩は、夜の時間に踏み出されるのだ。
夜の時間っていうくだりがなんとなくエッチな感じがしますが、まあそれは大人になる過程でたいてい経験していることですから、つべこべいう必要はないでしょう。

・・・と、ここまで書いていて思い出すのが『ロミオとジュリエット』の有名なバルコニーの場面。

二人の呼び交わしも夜に行われています。

ジュリエット この通り、私の顔は夜という仮面が隠していてくれる、
でもなければ、私の頬は娘心の恥かしさに真赤に染まっているはずですわ。だって、今夜はあんなことを立ち聞かれてしまったのですもの。

(中略)

ロミオ ジュリエット様、僕は誓言します、見渡すかぎり、
樹々の梢を白銀色に染めているあの美しい月の光にかけて。

ジュリエット ああ、いけませんわ、月にかけて誓ったりなんぞ。一月ごとに、
円い形を変えてゆく、あの不実な月、
あんな風に、あなたの愛まで変っては大事だわ。

(新潮文庫 シェイクスピア『ロミオとジュリエット』 中野好夫訳より)

シェイクスピアがこの物語を作ったときの設定では、ロミオは17歳、ジュリエットは13歳です。
ふたりとも思いっきり思春期で、夜にこんなことを喋り合っています。親の目の届く前で言えますか? 言えませんよね。

親が見ていないところでこういうことをしながら、大人への階段を登るのが人間というものです(ロミオとジュリエットは結ばれることなく命を落としてしまいますが)。

この記事お読みの中高生の皆さん。もし夜眠れないことに悩まされていたら、いっそ夜中に好きな子の家に行ってみてはどうでしょう。もしかしたらその子も眠れなくて、窓の外を見ているかも?? 普通はそんなこと起こりっこありませんけどね・・・。