ヴァイオリンというのはある意味古典芸能なので、昔から守り伝えられてきた「形」というものを次世代へつないでゆくという責務があります。

これが師匠から弟子へと、さらに孫弟子へと・・・、と手渡されてゆくと、いつの間にか「伝統」として成立し、ますます価値が重くなるというわけです。

このバトンリレーが続いているからこそ、「バッハの演奏法はこう」「モーツァルトを弾く時はこう」という約束事が確立し、バッハがバッハらしく聴こえます。
これを守らないと、バッハなのになぜかチャイコフスキーみたいになってしまう(私)という不思議現象が発生します。

ヴァイオリンの演奏法を先生から習っていると、あるとき疑問に思うことがあります。

「先生の先生って、誰だったんだろう?」

例えば桐朋学園大学の学長を務め、ヴァイオリニストとしても数々の弟子を育てた江藤俊哉さん。
彼の師匠はエフレム・ジンバリスト。ジンバリストの師匠はレオポルト・アウアー。アウアーの師匠はヨーゼフ・ヨアヒム。ブラームスの盟友ですね。そのヨアヒムの師匠はメンデルスゾーンの薫陶を受けています。

このように、有名な先生についていれば自分がどんな系譜に属しているのか、どんな流派(?)なのか歴史を遡ることができます。まるで新約聖書の『マタイによる福音書』の冒頭「アブラハムはイサクの父となり,イサクはヤコブの父となり,ヤコブはユダとその兄弟たちの父となり、云々」を思わせるではありませんか。

さて、私のヴァイオリンの先生はというと・・・。

ハロー効果? でヴァイオリンの先生にありがたみを感じる

「私のヴァイオリンの師匠はNHK交響楽団のコンサートマスターでした」。
ある日さらっと言われました。先生の推定年齢から察するに、堀正文氏、徳永二男氏、大体この辺りの時代の方らしいです。

具体的にどの方かまでは質問しませんでしたが、NHK交響楽団のコンサートマスターを務めたということであればおそらく先生の先生は例えば鷲見三郎氏だったりして、その鷲見三郎氏の師匠は・・・、と想像をふくらませると、自分が教わっている技術はもともとはヨーロッパのどこかから伝えられたものだということに思い至り、急速に今目の前にいる先生にありがたみを感じるようになりました(今まで感じていなかったのか、というとそうでもありませんが)。

これってある意味ハロー効果というやつでしょうか。
ハロー効果とは、
ある対象を評価するときに、目立ちやすい特徴に引きずられて他の特徴についての評価が歪められる現象のこと。光背効果、後光効果とも呼ぶ。

心理学の世界では、認知バイアスと呼ばれるものの1つである。

ハロー効果には、ポジティブ・ハロー効果とネガティブ・ハロー効果とがある。

ポジティブ・ハロー効果は、評価者が人材を評価する際に、ある特定の評価が高いと感じた場合に、別の項目も高くしてしまう現象である。また、ネガティブハロー効果は、評価者が人材を評価する際に、ある特定の評価が高いと感じた場合に、別の評価を低くしてしまうという現象である。

ポジティブ・ハロー効果の例として、次のようなものがある。

・Aさんが有名大学を卒業しているということと、ビジネスパーソンとして優れているかどうかは本来関係のないことであるが、実際に確認などをせずに、Aさんを優れたビジネスパーソンであると評価する

・英語ができることと、仕事ができることは本来、関係のないことであるが、実際に確認などをせずに、英語のできる人を優れたビジネスパーソンであると評価する 。

(https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11914.htmlより)
これで先生の言うことをますますありがたく感じるようになり、言われたことのすべてを記憶するようになり・・・、であれば上達が早くなるのでこれはこれで悪いことではないような気が・・・。