クラシックのCDは大変安く購入できます。
これは「廉価盤」というものの存在が大きいです。初めて発売されるときは3,000円でも、数年後に再発売され、その時の価格は半額以下になっているのが通常です。いわば、ハードカバーで出版されていた本が文庫本になるようなものでしょう。

この「廉価盤」というのは「ベスト100」などのシリーズ名が付けられ、カラヤンとかバーンスタインとかメータのような有名指揮者やケンプ、バックハウス、ハイフェッツにカザルスといったピアニストやヴァイオリニスト、チェリストらが過去に残した録音をリマスタリングした(だけ)のもの。
録音は1950年代から2000年前後のものが多いでしょう。とはいえステレオ録音であれば今から50年以上昔のものであっても音質は十分鑑賞に耐えます。

廉価盤ですら安いのに、それをブックオフで買おうとするとますます安くなります。
場合によっては300円を切ることも。『運命』とか『新世界より』のような名曲、そしてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のような世界最高峰のオーケストラの録音が300円なんて、価格設定がバグってないか? そうツッコミたくなることもありますが、価格というのは需給によって決まるものですから300円という価格が付いているということは、今の日本ではその価格が社会的に妥当なのでしょう。

そういわけで中古のクラシックCDはブックオフに行けば子供の小遣いでもたくさん買えてしまうのですが・・・、商品陳列棚を見ているとあることに気づきます。


ブックオフのクラシックCD売り場に見る商品の偏り

全国的な傾向ですが、ブックオフのクラシックCD売り場に並んでいる商品は明らかに「交響曲」と呼ばれるジャンルに偏っています。
クラシック音楽の分類は、大ざっぱに言って「交響曲」「管弦楽曲」「協奏曲」「室内楽」「器楽曲」「声楽曲」「オペラ」のようにカテゴリ分けされています。
他にも「バロック」「古典」「ロマン派」のように時代別に分類する方法もありますが、これは商品陳列には向かない分類であり、普通は「交響曲」「管弦楽曲」のように楽器編成に重きを置いた分類法が採用されています。

が、棚を見ると交響曲で全体の半分・・・、とまでは行かないまでも40%ほどのシェア(日本におけるトヨタ車シェアとほぼイコールです)、20%を管弦楽曲、20%を協奏曲、あとは細々と室内楽や器楽曲が分け合うという光景が広がっています。

ブックオフはお客さんが聞き飽きたCDを買い取り、それを商品として並べているわけですから、買取の段階で持ち込まれるCD自体、交響曲に集中していることが想像されます。ということは、次のようなことも示唆しているようではありませんか。

・交響曲が好き。要するに『運命』でもカラヤン、クライバー、ベームなどと複数の指揮者で聴き比べている。

・なぜ交響曲か? というと『レコード芸術』のような専門誌が指揮者による聴き比べ企画をよく掲載しているから。

・そもそも指揮者が数十人の専門職集団=オーケストラを掌握しているという姿自体「権力」をまとっており、そういうものに憧れている・・・、ということはリスナーのほとんどは男性。

・オーケストラが大音量でいろいろな音色を出すということ自体も派手さがあるので好きだ。

・反面、室内楽は地味で敬遠している。

・器楽曲も地味で敬遠している。

実際のところ、室内楽や器楽曲が地味だというのは編成の面でそうだというだけであり、バッハの『無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ』は音楽的完成度や後世への影響という点ではリヒャルト・シュトラウスの大規模な管弦楽曲に劣っているわけではありません。

しかし交響曲が圧倒的に人気で、室内楽や器楽曲があまり聴かれていないということは、クラシックのリスナーは実は「権力」「力強さ」「派手さ」「大音量」が好きなだけであり、それを「歴史に残る音楽」という権威性で覆い隠しているだけであり、音楽的価値を判断する耳は持ち合わせていない=ロバの耳なのではないでしょうか。

え、そんなことは言わなくてもいい? いえ、ここは「友だちいない研究所」。こういうことを平気で書くから友だちがいないんですよ・・・。