ヴァイオリンを弾いていると必ずいつかは迎える「本番」というものがあります。
たいてい緊張して大爆死して終わるものと相場が決まっています。
しかし本番なしだと、練習だけで人生が終わりがちです。音楽はお客さんに聴いてもらってはじめて意味をもつものですから、たとえ辛いものだとわかっていても本番は必ず乗り越えなければなりません。

で、本番の日。
配られたプログラムを見ると・・・、あれ、俺と同じ曲を弾く人がいるじゃん・・・。

~〇〇コンサート 〇月〇日プログラム~

埼玉一郎「精霊の踊り」
東京太郎「タイスの瞑想曲」
神奈川大介「ガヴォット」
千葉花子「タイスの瞑想曲」
山梨圭佑「ヴォカリーズ」

こうなるとお互い気まずい思いをします。

そうならないためには、「そこそこきれいで、頑張れば手が届く曲で、めったにかぶらないようなやつ」を選曲しなければなりません。

前回はグラズノフの「瞑想曲」をご紹介しました。今回はチャイコフスキーの「懐かしい土地の思い出」より「メロディ」を取り上げてみたいと思います。

「懐かしい土地の思い出」より「メロディ」






ウィキペディアによると、
以下の3つの作品から成り、全曲を演奏すると17分かかる。

瞑想曲 Méditation (ニ短調)
スケルツォ Scherzo (ハ短調)
メロディ Mélodie (または「無言歌(仏: chant sans paroles)とも」。変ホ長調)
とあります。瞑想曲とスケルツォは、きちんと専門教育を受けていないととても太刀打ちできないでしょう。瞑想曲なんて、もともとは「難しすぎて演奏できない」とレオポルド・アウアーに断られてしまった、あの『ヴァイオリン協奏曲』の緩徐楽章に使うつもりだったのですから・・・。

ありがたいことに「メロディ」だけはなんとかアマチュアでもなんとか立ち向かえるくらいの難易度です。3~4分と長さも手頃。楽譜はせいぜい1ページ。そうはいっても、しかしハイポジションを使う場面もあったり、スタッカートが連続する箇所もあったりと、それなりに技術が安定していないと弓に振り回される羽目になります。

こういう難しいところをちゃんとクリアできれば、チャイコフスキーらしい節回しを表現できるようになり、メランコリックなロシア情緒をお客さんに届けることができるでしょう・・・。

前回の記事でも書いたとおり、著作権の切れた楽譜ならISMLPで自由にダウンロードが可能です。
しかし「著作権の切れた」というのが曲者で、つまりは古いということです。
今どきこんな運指ってあるのか? ミスプリじゃないのか? というような楽譜もたまに出くわします。そもそも100年以上も昔の作品が長い時間を超えて私たちの世代まで生き残っているということは、その間の人々がきちんと楽譜を守り伝えてくれたからこそ。
この伝統の重みに対するリスペクトを示す意味でも、信頼できる版で演奏するという意味でも、私は人前で演奏する曲は自腹で楽譜を買うということを推奨します。