荒木飛呂彦先生の代表作『ジョジョの奇妙な冒険』の第1部でポコが叫ぶ名言があります。

ねーちゃん!

あしたって、いまさッ!

もともといじめられっ子だったポコが、姉にこう諭されたのが、このセリフのきっかけでした。
(姉)あきれるわ なぜ、いつも黙っててやり返さないのよ

(ポコ)あ あした やってやらあ!

(姉)あしたっていつのあしたよ? ポコ あんたの一番こわいことってなあに? 一番こわいのはこの痛みなの? 痛いのってこわい? あんたいつまでも 大人になってもひとりじゃなんにもできない方がもっとこわいとは思わないの?
この姉も、もしかすると死んでしまうかもしれない。そう感じたポコが「あしたっていまさッ!」の言葉とともに振り絞った勇気でジョジョは危機を乗り切ることができました!

この「あしたっていまさッ!」って元ネタがあるのでしょうか? ひょっとしてこれじゃないかと思われる名言がありまして・・・。

ギリシア・ローマ名言集に見る「あしたっていまさッ!」

私の手元には岩波文庫の『ギリシア・ローマ名言集』があり、そこに「あしたっていまさッ!」に類似する言葉が掲載されていました。

「あすは生きるだろう」と君は言う。いつも「あすは」、「あすは」、と君は言う。
ならば言ってくれ、ポストゥムスよ、その「あす」とやらは、いつ来るんだ。

(マルティアリス『エピグラム』第5巻 58.1より)
マルティアリスは1世紀後半に活躍したエピグラム詩人でした。エピグラムとは、もともとは墓に彫られた短い詩つまり墓碑銘としての詩を意味していましたが、だんだんと「簡潔な表現で人や物事の本質をピタリと言い当てる詩」という意味で使われるようになります。

ギリシア・ローマ時代には「あす」にまつわる言葉がこの他にもいくつか残されており、最も有名なのが「ここがロドスだ、ここで跳べ!」でしょう。この言葉は、AKB48のアルバム名にも使われたので聞いたことがある人もいることでしょう。

これは、古代ギリシアのイソップ寓話の「ホラ吹き男の話」に由来します。
このホラ吹き男は、「自分はロードス島で開かれた陸上競技大会で、素晴らしい走り幅跳びの記録を打ち立てた。もしロードス島に行くことがあったら、誰でも知っているからぜひ聞いてみろ」と自慢していました。
すると、その話を聞いた別の男が、「ならばここがロードス島だと思って、ここで跳んでみろ」と求めました。そのため、このホラ吹き男はすっかり困り果ててしまったということです。

つまり「論より証拠」であり、「今いるこの場所でベストを尽くせ」「今という現実に全力で向かい合え」という教訓が引き出されます。ここから「ここがロドスだ、ここで跳べ」という格言が生まれ、環境のせいにしないで自助努力を意味で用いられるようになりました。

「あしたって、いまさッ!」の元ネタが果たして本当に私の予想どおりかどうかはともかくとして、『ジョジョの奇妙な冒険』には、このように「もしかして元ネタってアレなのかな・・・?」という深読みを許容する面白さがあります。そんな時、古典というのは一見役に立たないように思えて、実は色々とものを考えることになった時には補助材料として大いに力を発揮してくれます。

荒木飛呂彦先生の卓越したストーリーテリングそして他の誰とも似ていない作画を堪能しつつ、他方でたまには『ギリシア・ローマ名言集』のような本に目を通しておくと、いろいろと立体的に物事を考える地頭力を得られることでしょう。