サンリオ創立60周年を記念して六本木ヒルズで開催中の「サンリオ展 ニッポンのカワイイ文化60年史」。これには心を動かされました。

私は普段六本木なんて行きません。最後に来たのは、ヴァイオリンの銘器ストラディヴァリウスを展示するイベントが2018年でしたから、およそ3年ぶりです。でもポムポムプリンファンとしてやはり足を運ばないわけにはいきませんでした。

そして私が目にしたものとは・・・。

感動の「サンリオ展 ニッポンのカワイイ文化60年史」

もともとサンリオはちょっとしたギフトを作る会社だったようで、創立当時はキティちゃんもけろけろけろっぴも影も形もない状態でした。

そのころの主力アイテム(?)はいちご。
あの春先によく食べる、いちごです。

どうしてでしょうか? それは1960年代の日本の社会情勢を反映していました。このころ高度成長が始まり、親元を離れて一人で都会へ働きに出る女性が増えていました。
といっても当時の大学進学率から考えて、そのような女性は大卒=22歳であったとは考えにくく、ほとんどはせいぜい高卒=18歳だったことでしょう。

仕事を終え、狭い部屋に帰ってきた一人ぼっちの彼女たちは、きっと故郷の家族を思い、寂しい気持ちになっていたに違いありません。
サンリオはそうした女性たちの心を慰めるものをと、いちごをプリントした商品を世に送り出していました。いちごは、漢字で書くと苺。草かんむりに母。だからいちごなんですね・・・。

70年代になるとキティちゃんやリトルツインスターズ(キキララ)などのキャラクターが送り出され、どれも丸みを帯びた可愛らしいもの。
直線よりも曲線が、三角よりも丸が、より可愛く感じられる。そうした直感的なことを積み重ねることで「カワイイ」という曖昧な言葉に明確な基準が浮かび上がってきます。たしかにタキシードサムといいポムポムプリンといいマイメロディといい、どれも丸みを帯びた親しみやすいデザインになっていますね。

いちご新聞に込めた、子どもたちへの思い、平和を願う心

この展覧会ではマイメロディやポムポムプリンの誕生秘話なども紹介されており、人気キャラクターの由来を確かめることができます。

しかしやはり注目すべきは、数十年にわたるサンリオの出版してきた書籍や雑誌、いちご新聞の変遷でしょう。
あまり知られていませんが、やなせたかしの描いた絵などが掲載されている「詩とメルヘン」、わずか数年で休刊となるも、手塚治虫など有名作家の連載もあった「リリカ」など、おそらく神田の古書店街を探しても見つけるのは難しいのではないかと思われるものたちが展示されています。

これらを見ると、数十年前からサンリオの目指すところがぶれておらず、創業者の思いが企業活動に深く根ざしていることがわかります。

その創業者=辻信太郎の思いが最も色濃く現れたのが「いちご新聞」でしょう。

一部コンビニでも販売されている「いちご新聞」はサンリオの機関紙であり、新商品情報やピューロランドのイベント告知などが掲載されていますが、毎号きまって巻頭には「いちごの王さま」からのメッセージが書かれています。

初めて「いちご新聞」を読んだときは、「そんなキャラいたっけ?」と首をかしげてしまった私でしたが、このいちごの王様というのは言うまでもなく辻信太郎。

サンリオファンなら必ず耳にする言葉「みんななかよく」。

この言葉はいちごの王様の平和を求める心とも結びついていて、例えば展覧会には戦後70年を迎えた際の「いちご新聞」の「いちごの王様」のメッセージが展示され、目を通してみるとまるで天皇陛下のおことばのような内容になっています。

20世紀後半にはベトナム戦争や湾岸戦争、21世紀に入ってもイラク戦争やテロとの戦いなど、様々な形での争いが絶えず、そのたびにいちごの王様は「いちご新聞」の読者=子どもたちに平和を願うメッセージを書き続けていたのでした。ということは50年以上にわたってそのような言葉をずっと発しているということであり、このようなことは自分の心の最も深いところに確固たる信念がなければ到底なしうるものではありません。

さらには同紙でいじめの問題や自殺の問題とも向き合うことがしばしばあり、ただただ「みんななかよく」を唱えているのではなく、具体的にそのような状態を維持するためにどう知恵を絞るかという問題提起をしている点などは特筆に値するでしょう。

「いちご新聞」の読者もやがて大人になり、例えばイラク戦争ひとつとっても歴史的要因が根深く、宗教や民族同士の、あるいは経済的利害をめぐる対立の解消は絶望的であると悟る日が来るでしょう。
しかし親の立場になったとき、昔の自分を思い出して「せめてこの子たちには少しでも平和な社会を」と願いつつ「いちご新聞」を子どもに手渡すのかもしれません。そうしたことができるのも、「いちごの王様」が一貫して平和へのメッセージを発信し続けているからであり、これこそサンリオの原点であろうと思われます。

「サンリオ展 ニッポンのカワイイ文化60年史」の展示の数々を見ていると、男の私でさえ目が潤む箇所がいくつもありました。こうしたカワイイ文化という素晴らしい潮流はぜひ次世代へ確実に手渡したい。そういう思いになれるすばらしいイベントだと思います。