ヴァイオリンを弾きこなすというのはとても難しいことです。

聴いているほうは客席で寝ていてOK。でも音程が外れたりボウイングが変だったりするとお客さんは違和感を感じ始めて、寝るどころではありませんね。

お客さんに違和感を持たせないために、私たち演奏する側の人間は何百回となくさらいます。
するとお客さんは気持ちよくなって眠りの世界にいざなわれてしまいます! なんてこったい!

ただ実際にはプロのソリストとして活動しているのでない限り、何曲もレパートリーを抱えていて、すぐに赤の他人に演奏を聴かせられるというレベルにはとても到達しないのが実際のところです。

せっかく覚えたのに、数カ月後に弾けなくなっている!

私だけではないとは思いますが、ソナタや協奏曲をやっとのことで習得したとしても数カ月後に改めて弾いてみたらボロボロだったというのは「あるある」だと思います。

まさに自分がそうだったのですが、バッハの『無伴奏』を練習したあと、何ヶ月かぶりにモーツァルトの『ヴァイオリン協奏曲第3番』を弾いてみました・・・、が、最初の1分であまりにぐちゃぐちゃの状態になったので弾くのを諦めました。

まさか俺、物覚えの悪い劣等民族なんじゃ? 
ナチス・ドイツ時代に生まれていたら「価値の低い人間」として安楽死させられてたんじゃ?
そんなことすら空想してしまいました。

このことを私のヴァイオリンの先生に話してみたところ、大抵の人はそういう状態だそうです。

「プロのソリストの人はいろんな曲を弾けますが、ああいう人たちはそういう生活をしている(つまり他の多くのことを捨てている)わけです。そうじゃない人たちは、リサイタルのための2時間のプログラムを取り揃えるだけで大変な苦労をすることになる」。

うーん、休憩込み2時間というと、正味演奏時間80分くらいになりますね。
ブラームスのヴァイオリン・ソナタ全3曲だとだいたいそれくらいです。
あるいは、例えばですが前半に誰かのヴァイオリン・ソナタで30分。後半にまた30分程度のソナタを1曲、それから5分程度の小品を数曲ほど。

でもたとえば頻繁にコンサートのプログラムに掲載されるフランクのヴァイオリン・ソナタの一つの楽章ですら、赤の他人に聴かせて納得してもらえるだけの演奏水準に到達すること自体が無理難題に近いです!

先生は言葉を続けます。
「プロの人は、一度崩れても(弾けなくなっても)短時間で立て直す方法を知っているものです。だから、弾けないとしてもある程度練習をすれば人に聴かせられるだけの水準にまた戻ってくることができる」。
プロってすごいや!

もちろん私は人からお金を取れるだけのレベルではまったくありません。
そういう人はどうすればいいのかと言うと、「過去に覚えた曲を定期的にさらってみてある程度思い出すしかない。昔よりも基礎技術が上達していると、以前は見落としていたいろんなところに気づいたり、そのせいで別の課題ができたりする」というごく当たり前な返事が帰ってきました。

ヴァイオリン上達の道はかくも険しい・・・。