1939年、ナチス・ドイツがポーランドの国境を侵して第二次世界大戦が始まると、ドイツ軍はまたたく間にポーランドを制圧し、翌年にはデンマーク、ノルウェー、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクが占領されます。そしてフランスもヒトラーの治世下に置かれることになりました。

1940年4月9日早朝、ドイツ軍はデンマークに向けて進撃を開始。たちまちコペンハーゲンやその他の主要都市、飛行場などを占領してしまいます。ヴェーザー演習作戦と呼ばれたこの侵攻はわずか数時間で終結、正午までにデンマーク軍は完璧に制圧されてしまいました。

明らかな侵略戦争ですが、ナチス・ドイツは「あなたたちをイギリスやフランスの影響から守るためにやったことです」と正当化してしまいます。

ソ連が中立条約を破って満州へなだれ込んできたときもその名目は「平和のため」。
最後まで戦いを続ける枢軸国を倒すことは人類の平和に貢献することであり、このことは英米各国も支持しているというのがソ連の立場でした。

イラク戦争も「大量破壊兵器が平和を脅かす」という前提で始まりましたから、平和のために戦争をするというのはどうやらいつの時代にも使われがちな口実のようです。

さてデンマーク人はナチス・ドイツに占領されてさぞかし悔しかっただろうと思うと・・・、どうやらそうではなかったようなのです。

デンマーク人はナチス・ドイツに占領されて喜んでいた?

私が読んだ本『ナチスに挑戦した少年たち』には、ドイツ軍やドイツに取り入って金を稼ごうとする大人に対する怒り、唯々諾々と現状を受け入れて立ち上がらない国民へのいらだち、自分たちは子どもであり非力であると知りながらもできることを実行して少しでもナチスの活動を妨害しようという、彼らの気概や少年らしい反抗心が描かれています。

彼らは自分たちのグループを「チャーチルクラブ」と呼びました。ドイツと徹底抗戦を辞さなかったチャーチルにあやかって命名したようです。
彼らの妨害行為に手を焼いたドイツ軍はデンマーク政府に圧力をかけ、チャーチルクラブの活動が広く知られるようになると多くのデンマーク人が勇気づけられたと言われています。

これは実際にあった話ですが、実態としては「多くのデンマーク人」はナチス・ドイツに必ずしも反抗心を持っていなかったということも『ナチスに挑戦した少年たち』に書かれていました。
今ではナチスとは巨悪の象徴とみなされているため、彼らを嫌う人は非占領地では多かっただろうと思っていましたが実際はそうではなかったようです。
(ちなみですが、第二次世界大戦勃発直後のドイツは略奪経済により潤い、ドイツ人は豊かさを満喫していたようです。NHKの『映像の世紀 第2集』ではカラーフィルムでベルリンの賑わいを紹介していました。それにしても彼らは自分たちの豊かさが非占領地からの収奪だと自覚していたのでしょうか?)

『ナチスに挑戦した少年たち』には、デンマークの様子をこう説明しています。
多くのデンマーク人はドイツに占領されることに満足していた。経済的にはうるおっているし、家も焼かれたりしていない。一方、ドイツ軍の兵士たちは食料は十分にあるし、デンマークの街々の行政権をにぎっているし、現状を維持するために指一本あげる必要がない。デンマークの治安を守るために軍隊を動かす必要はないのだ。ドイツ軍がいるだけでデンマーク人はおとなしくしているのだから。そんなわけで、両方にとってとても良好な関係が保たれてきたといっていい。
要するに、人間を動かすのは「メリット」欲しさでしかないようです。
チャーチルクラブの少年たちを突き動かしたのは、このような人間心の弱さをナチス・ドイツが露わにしてしまったからなのでしょう。

デンマークという国は不思議なもので、このように市民は一見ナチス・ドイツに従っているように見えながらもユダヤ人迫害には協力せず、オランダやノルウェーに居住していたユダヤ人と比較すると、ナチスに囚われたユダヤ人は圧倒的に少なく、中立国スウェーデンへ脱出できた者たちも数多くいるという事実です。(ということは、『ナチスに挑戦した少年たち』だけを見ていると気づかないのでたくさんの資料を読むことが大事ですね。)

果たして非占領地の人びとは、ナチス・ドイツによる占領とどう向き合ったのか・・・。
かつては「レジスタンス神話」というものが幅を利かせていましたが近年ではナチスに積極的に協力した人も数多くいたこと、勝利を収めた連合国もまた非人道的な報復を行っていたことが明らかになってきています。
こうした資料も目を通して「ナチスとは」「人間とは」というテーマに理解を深めておきたいと思いました。

ちなみにチャーチルクラブのメンバーは次々とドイツ軍相手に窃盗や破壊行為を繰り返し、確実に実績を上げていきます。彼らはその後どうなるのか・・・。デンマークの人びとはナチスの占領にずっと満足していたのか・・・。こればかりは読んでみてご自身の目で確かめていただくしかありません。