ヴァイオリニスト、川畠成道さんが2002年から始めたコンサートシリーズのグランドファミリーコンサートも2021年で20回を迎えました。

毎回、親しみやすい曲目を並べて子ども連れでも楽しめるであろう雰囲気づくりを心がけている良心的なコンサートであり、これから30回、40回と年輪を重ねてゆくことが期待されます。

私も2021年5月29日(土)に紀尾井ホールで開催されたこのコンサートに足を運び、いつもの川畠成道さんの音楽を堪能してきました。

演奏会のチラシからではすべての曲目はわかりませんが、実際には次のような曲がプログラムに載っていました。

ドヴォルザーク:ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ ト長調 Op.100

ドヴォルザーク:わが母の教え給えし歌

ブラームス(ヨアヒム編):ハンガリー舞曲第1番

バルトーク(セーケイ編):ルーマニア民族舞曲

メンデルスゾーン(ハイフェッツ編):歌の翼に

ショパン(ミルシテイン編):ノクターン 嬰ハ短調(遺作)

ピアソラ(寺嶋陸也編):エスクアロ(鮫)

グノー:アヴェ・マリア

サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン

じつはドヴォルザークのソナチネは自分の子どもの音楽センスが向上することを願って作曲されたものです。
わが母の教え給えし歌も家族という言葉を意識して採用していることは明らか。

その他、デビュー当初から何度も演奏してきた親しみ深い曲をプログラムに載せ、さらには今年が生誕100年だというピアソラも取り上げています。

アンコールは次のとおり。

ラフマニノフ:ヴォカリーズ

ブラームス(ヨアヒム編)ハンガリー舞曲 第5番

アイルランド民謡(クライスラー編):ロンドンデリーの歌

初期のアルバムに収められた曲を主に演奏してきたな、という印象があります。

川畠成道さんの演奏は奇をてらうところが一切なく、ご本人の書いた文章からもうかがわれる通り誠意に満ち溢れたもの。主観的な(余計な)味つけを排して丁寧に紡がれる音の連なりは、ヴァイオリンと出会うことになったきっかけがわずか8歳でアメリカで薬の副作用により命の危険にさらされたこと、わずかな生存率にもかかわらず献身的な治療により救われたこと、こうした人の優しさにより生命がつながり、無事帰国することができたことがあったことをやはり連想せざるを得ません。

ヴァイオリニストの音色や表現というのは人により微妙に異なっているのは有名な話で、例えばイヴリー・ギトリスとヒラリー・ハーンとアルテュール・グリュミオーとヤッシャ・ハイフェッツは同じ曲を演奏していてもまるで違って聴こえてくるものです。

では川畠成道さんはどうかというと、ハイフェッツのような切れ味やグリュミオーのようなノーブルな雰囲気こそないものの(これを真似できる人などいるはずもないから彼らは「大家」なのだが)、今の自分にできることに正面から向き合っていることを思わせる、あたかも労働者が一つ一つレンガを積み重ねて建築物を完成に導いているかのような堅実さをもそなえたもの。

アンコールの最後に演奏されたロンドンデリーの歌はこの日の最大の聴きもので、G線の深い響きとむせび泣くヴィブラート、そして最後の重音奏法からフラジオレットで消えていく詠嘆まで、たしかな技術と民謡の歌心が高い次元で結びついていました。

ヴァイオリンの演奏というとどうしてもコンチェルトが注目され、室内楽曲や器楽曲は地味、、というか大抵集客に苦労すると相場が決まっていますが、音楽家の個性を味わうという点ではソナタや無伴奏曲、または有名曲のリサイタルもまた捨てがたい味わいを持ちます。

9月にまたバッハやイザイの無伴奏曲のリサイタルが予定されており、こちらもぜひ足を運ぼうと決意しました。