毎年冬、というかクリスマスが近づくと日本全国で『第九』と『くるみ割り人形』が盛んに演奏されます。
『くるみ割り人形』はたしかにクリスマスという設定なのでそれも当然ですよね。
CD店で手に入るバレエの曲といえば「抜粋版」と「全曲版」というものがあり、前者はハイライトで後者はほんとに全曲を収録しています。たまに全曲版といいながらもじつはいくつかこぼれ落ちている場合があるのですが・・・。
CDでバレエの曲を楽しむメリットとして挙げられるのが、「管弦楽曲として」鑑賞できること。
バレエの伴奏の場合はダンサーが踊れるように、リズムを正確に刻んでテンポも一定で、ということにしないと足がもつれてしまいます。
だからなのか、普段クラシックファンとくにフルトヴェングラーとかミュンシュとかクライバーのように大きく表情を変える表現を得意とする指揮者の録音をよく聴く人にとっては「バレエの伴奏って退屈なんじゃないか」と思われがちです。
実演ならそうかもしれませんが、CD録音の場合は指揮者はダンサーを意識しなくてすみますので、純粋に音楽表現に徹することができます。
そうなってくると指揮者の個性や力量が存分に盛り込まれた録音になります!
『くるみ割り人形』、ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団の録音が表現力豊か
1953年、モスクワ生まれのゲルギエフは1977年レニングラード音楽院を卒業し、テミルカーノフの助手としてサンクト・ペテルブルグのキーロフ劇場(現マリインスキー劇場)の指揮者となり、1988年、35歳でキーロフ劇場芸術監督に就任しています。
マリインスキー劇場管弦楽団を率いての来日公演も多く、私も彼らの力感あふれるチャイコフスキーやワーグナーに感銘を受けた1人です。
このコンビの特徴はなにより指揮者、オーケストラの情熱があふれるほど伝わってくるということです。
『くるみ割り人形』の序曲からして溌剌とした弦楽器の刻み、クリスマスへの期待が高まる情感を歌い上げているようではありませんか。
「クララとくるみ割り人形」の木管群のユーモラスな表情もまた雰囲気満点。
「ねずみの王様の戦い」でも、メルヘンらしい響きに満ち溢れています。これは本当の戦争ではなく、あくまでもクリスマスのファンシーな物語だということをきちんと押さえていることの証ですね。
誰もが気になるであろう「花のワルツ」から終幕までの情感は息を飲むばかり。
分厚い弦楽器の響きをベースに管楽器が華やかなメロディを奏でます。これをバレエの実演でやってしまったらダンサーから見せ場を略奪していると思う人も出てくるのではないかと思うほど。
速めのテンポで突き進む音風景からは、『くるみ割り人形』をもう単なるバレエの伴奏音楽ではなく一つの『管弦楽曲』としてとらえていることが明らかであり、音符の一つ一つから曲想をえぐりだしています。
「パ・ド・ドゥ」のむせぶように歌うチェロといい、軽やかに舞い上がる、上質のスパークリングワインのような優美な音色のフルートといい、踊り抜きでも完全に作品として成立していることを証明しています。どうか終わらないで、夢なら覚めないで・・・、1秒でもこの時間が長く続きますように・・・。そう思ってしまうほど、現実離れした世界が広がります。
これほどまでに高い演奏技術と情熱、そして気品がそろった演奏はめったにないでしょう。
本場ロシアの指揮者とオーケストラが本気を出した時、どんなレベルに到達するか嫌というほど思い知らされてしまう、まさに「名盤」の名にふさわしい1枚と言えます!
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