2020年~2021年にかけて緊急事態宣言のために多くのコンサートが中止、延期に追い込まれました。
果たしてそれが感染症対策として費用対効果の観点から、また科学的観点から適切だったのかどうか、今後検証が必要でしょう。

それはともかくとして、私は「このコンサートもどうせいきなり中止になるんだろうな」という思いを心のどこかに持ちながらチケットを予約するようになりました。

そうなると・・・、俄然キャンセル魔として知られた往年のピアニスト、ホロヴィッツやミケランジェリらのコンサートチケットを買い求めたクラシックファンの気持ちがわかるようになってしまいました。人間、どこに学びがあるかわかったもんじゃないですね。

私の手元には中村紘子さんの『ピアニストという蛮族がいる』という本があります。
これによると、ミケランジェリは初来日以降、73年、74年、80年と4度来日。
しかし予定通りのスケジュールをこなしたのは65年の初回だけっで、あとはキャンセル魔ぶりを発揮したとか。

80年の来日の場合はお気に入りのピアノを日本にわざわざ運んできたものの、それが調子が悪くて思うような音が出ない。調律師はそれをメンテナンスしようとして倒れてしまうということもあったようです。
どうやらミケランジェリ自身にしかわからないピアノの不調でキャンセルすることは他にも何度もあったようで、契約書にはキャンセルができる場合は「戦争」「革命」「内乱」などの限られた状態に限られます。まさか「ピアノの調子が悪くて」でキャンセルするなんて、プロモーターとしては困ったものでしょう。

しかしミケランジェリは彼なりの責任感があったらしく「高額のギャラをもらっているのだから、不充分な演奏では聴衆に申し訳ない」というのがキャンセルの理由でした。
もうこうなってくると彼は真面目だったのか、怠惰だったのかわからなくなる、そういう逸脱した人物像の持ち主だったようにしか思えません。

さて緊急事態宣言でコンサートもバタバタとキャンセルされていくという、想像の斜め上すぎる事態に陥った2020~2021年。

私はどうするのか? というと演奏家たちを少しでもサポートすべく、キャンセル覚悟でこれからもチケットをビシバシ予約するでしょう。自分のお金が文化活動の踏石になることを願って。