東京都は2021年4月25日より緊急事態宣言下にあります。
この期間中、コンサートをはじめとする様々な文化活動は軒並み中止・延期を強いられています。
私はその直前である4月24日、読売日本交響楽団の第236回土曜マチネーシリーズを聴くことができました。あと1日違っていたら・・・。
この演奏会も指揮者・小林研一郎さんの芸風そして読売日本交響楽団の特色がよく現れた素晴らしいもの。一言でいえば燃え立つような情熱、そういうひとときになっていました。
まずはベルリオーズの序曲「ローマの謝肉祭」。
読売日本交響楽団といえば、まず何よりも情熱的な演奏であること。
水彩画か油絵かといったら後者で、ワインに喩えるならピノ・ノワールではなくボルドー。
イングリッシュ・ホルンのメロディもイタリアのトラットリアで出てきた大盛パスタを思わせるような陽性の歌声。これから始まる光景の予告に、期待を掻き立てられます。
そこから弦楽器の厚くも輪郭のくっきりしたメロディ。
そのまま木管、金管も参加して華やかな饗宴となり、謝肉祭の名に似つかわしい音世界を広げてくれました。これが今年81歳となる指揮者の音楽でしょうか!?
つづくサン=サーンスの『ヴァイオリン協奏曲第3番』はヴァイオリニストに福田廉之介さんを起用。
なんと私と同じ岡山県出身、正直あの弦楽器不毛の地帯でどうやってヴァイオリニストになったのか・・・、という疑問はさておき、ヴァイオリン学習者は避けては通れないともいえるこの曲は、誰もが楽しめる名曲。
有名なだけに他のヴァイオリニストと比較されやすく、ほころびが目立ってしまうもの。
しかしフランス音楽の常として、なんだかメロディがクネクネしていてなかなかややこしい!
福田廉之介さんは1999円生まれ、まだ大学生くらいの年齢ですがもうまばゆいばかりの技巧を駆使して難路を突破、これは紛れもなく「うまい」。私はフランス音楽ではなく、バッハやベートーヴェンのようなドイツ系の音楽を今度は聴いてみたくなりました。一体バッハの無伴奏やベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲をどう料理してくれるのかと・・・。
曲の最後はムソルグスキー(ラヴェル編曲)の『展覧会の絵』。
冒頭の「プロムナード」からしてやはり「ローマの謝肉祭」と同じく肉厚な金管のメロディで開始。
もともとこの曲は急死した友人の回顧展の印象から構想されたものであり、明るさをのぞかせるところがあるものの、じつは「死」と隣り合わせであることに注意が必要です。
にもかかわらず、いやあえてなのか、この力強いプロムナードは「死」を意識したがゆえの明確な生への意志でもあるのか・・・。
この曲はホルン、ファゴット、トランペット、チューバなど管楽器のソロが多く(というところがフランス風なのですが)、やはりいずれもくっきりとした存在感を放つという点では一貫しており、儚さや寂しさとは別世界。とすればこの力強さは意図的なものとみるべきでしょう。
やがて曲は「キエフの大門」にたどり着きます。
ここではとうとうオーケストラ全体が華麗に響き渡り、ロシアの大地に轟く生命賛歌ともいえる音響で結ばれます。曲全体として「プロムナード」といい「カタコンブ」といい力感・生命力を重視したパワフルなスタイルは、この「キエフの大門」をいっそう輝かしいものとし、全曲を聴き終わったという確かなカタルシスを残します。
緊急事態宣言により数週間にわたり音楽会が中止になってしまうのは大変残念なことですが、その1日前ということもあり指揮者小林研一郎さんにも、またオーケストラの団員にもそれを意識したのか色々な面で「力」の目立つ演奏会となっていました。
このコンビでワーグナーやマーラーをぜひ聴いてみたい・・・、そう期待しつつ私は東京芸術劇場を後にしました。
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