ヴァイオリニスト・川畠成道さんのリサイタル(2021年3月20日、紀尾井ホール)を聴きました。

川畠さんは桐朋学園大学を卒業後、イギリスに留学していましたがフランスのプーレという師匠からも多くのことを学んでいます。しかしこれまで発表されたアルバムにはあまりフランス音楽は含まれていませんでした。

その意味で、フランス音楽を特集した今回のリサイタルはあまり見られることがなかった川畠さんの側面に光を当てるものとして非常に興味深い一日となりました。

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「白さ」が感じられる上質なフランス音楽

2021年に初披露となったフォーレの「子守唄」からして、なんという「白さ」に満ちている音づくりだったことでしょうか。
いうなれば春の薄い光がさんさんと降り注ぐレストランのテラス席、白いテーブルクロスに白い食器、磨き上げられてくもりひとつない銀のカトラリー。これで静かにフレンチを食べる休日の昼が頭の中に浮かび上がるようではありませんか。

曲のフレーズひとつひとつを丁寧にすくいとってすべての音符を確実にきれいな音で表現するという、当たり前の話ながらも実際にやってみると大変な困難を伴うことをやってのけました。

珍しいのがピアソラの「タンゴの歴史」。フランス音楽なの? と思うかもしれませんがピアソラはパリに留学したことがあったようです。
頻繁に聴ける曲ではないだけに、実演で耳にできるというありがたみもさることながら、ここでは「大人の音楽」といった趣でここだけは「白さ」から一転「黒さ」や「赤さ」を思わせるような・・・、ワインバーのような雰囲気だといえば伝わるでしょうか。そこはそれ川畠さんの音色からして重いボルドーではなく、ピノ・ノワール(というブドウ品種)から作られる上質のブルゴーニュといった様子。

学生時代の川畠さんの師匠・江藤俊哉さんの音色は保守本流というか、ボルドーを思わせる重厚なものでした。弟子である川畠さんはカベルネ主体のずっしりとしたボルドーではなく、軽さと馥郁とした香り、気品で飲み手を別世界へいざなうブルゴーニュ。師弟関係でありながらこの対照、だからこそ音楽はおもしろいのでしょう。

サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」でも、この曲はもともとはサラサーテのために書かれた曲ということもあり、スペインらしい官能性を取り入れた華麗なショーピースのはず。
ところがやはりこの日のリサイタルではパリのパンテオンを思わせる、整然かつ静謐感すら漂う「白さ」が音に込められているようでした。こんな「序奏とロンド・カプリチオーソ」、聴いたことがなかった・・・。

川畠成道さんは著作のなかで「静かなところでインパクトを与える演奏家になりたい」といったことを発言されていましたが、どうやらそういう姿を現実のものにしたようです。

川畠さんは「今年生誕50年」を迎えるそうで、まだまだ演奏家として成熟への道は十分開かれているはずです。フランス音楽では「白」を主体とした音風景を作り出していましたが、これがブラームスではどうでしょう。チャイコフスキーやグリーグではどうなるのでしょう。同時代の演奏家として、しっかりと見届けたいと思います。