クロスオーバー作品を多く演奏しているヴァイオリニスト、石川綾子さん。
2020年には日本ヴァイオリン社よりストラディヴァリウス「Marquis de Riviere」を貸与されました。

これは同社が六本木ヒルズで開催した「東京ストラディヴァリウス フェスティバル 2018」でも展示されていた楽器であり、私もMarquis de Riviereは見ていますがその気品のある様子にはただただため息をつくことしかできませんでした。

楽器博物館などを訪れるとストラディヴァリウスやグァルネリのような銘器が展示されていることがあってもせいぜい1~2本。「東京ストラディヴァリウス フェスティバル 2018」ではなんと21本ものストラディヴァリウスが一堂に会するなんて、前代未聞の出来事です。

1挺あたりの価値を10億円とすると210億円・・・。平均的日本のサラリーマンの生涯賃金が3億円弱ですから、人生を70回サラリーマンとしてやり直すくらいの価値ということになりますね。いやな試算ですが。

Marquis de Riviereの由来など

「東京ストラディヴァリウス フェスティバル 2018」を企画した中澤創太さんの著作『TOKYOストラディヴァリウス1800日戦記』にはMarquis de Riviereの由来が書かれていました。
それによると、1711年、クレモナのアントニオ・ストラディヴァリ制作というオリジナルのラベルが残っており、ニックネームであるマルキー・ドゥ・リヴィエールはリヴィエール公爵という称号をもつフランスの高官・大使・政治家のシャルル・フランソワ・リファルドー(1765-1828)にちなんでいるとか。

「東京ストラディヴァリウス フェスティバル 2018」の時点では「プライベートコレクターのもとに収まっている」とされています。
この催しではZOZOの前澤友作さんが所有しているストラディヴァリウス「ハンマ」も展示されていたので、やはり同じようにどこかの誰かが資産として所有し、「将来性あるヴァイオリニストに使っていただくことで楽器の価値を高めたい」と思って日本ヴァイオリンを(有償または無償で)経由して石川綾子さんが使うことになったのではないでしょうか。

ストラディヴァリウス、個人所有は無理

2002年には千住真理子さんがストラディヴァリウス「デュランティ」を個人で購入したことが話題になりました。これには作曲家の千住明さん、日本画家の千住博さんといった兄弟を巻き込んでの難しい金策を行ったうえでどうにかこうにかローンを組んだことが『千住家にストラディヴァリウスが来た日』で明かされています。

つまり千住真理子さんが個人で購入できたのは、ストラディヴァリウスを自費で所有できた最後の時代だったということになりますね。

その後もストラディヴァリウスの取引価格は上昇を続け、東日本大震災復興資金捻出のために日本音楽財団が手放した1721年製のストラディヴァリウス「レディ・ブラント」はロンドンでオークションに出品、1589万4千ドル(約12億7千万円)で落札されるということもありました。
これはたとえ一流ヴァイオリニストの所得であっても個人所有が絶望的であり、もう企業なり何らかの財団なりといった支援が不可欠であることを意味します。

ストラディヴァリウスを弾く者は歴史に対する責任もある

ストラディヴァリウスは楽器であると同時に300年の時を経た歴史の目撃者でもあり、人類の遺産と言っても過言ではありません。
これまでの数々の所有者を経て巡ってきて、人間の寿命よりも遥かに長く使われるわけですからいずれは次世代へ手渡す責任があります。この楽器を使えているうちに、素晴らしい音色を多くの人へ届け、そして音楽文化という土壌を耕して未来へつなげてゆかなくてはなりません。

石川綾子さんもまた歴史や文化の担い手として、その使命を存分に果たしていただきたいと思います。
私も何度か演奏会へ足を運んだことがありますが、ジャンルの垣根を越えた楽しい一時でした。ぜひまた近いうちにチケットを確保したいです。