バッハの代表作のひとつ『無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ』では、重音奏法がいろんなところに顔を出し、演奏者を手こずらせます。

ヴァイオリンはもともと旋律楽器で、きれいなメロディを奏でるときに「らしさ」が現れます。

一応コード(和音)を弾くこともできますが、駒の上に張り巡らされた4本の弦はよく見ると微妙にそれぞれ傾斜がついているので、弓でまともに同時に音をだせるのはせいぜい2つ。3つ出せなくもないですがかなり無理があります。

ところがバッハの『無伴奏』というのは平気で4つの音を同時に弾くかのように書かれており、何も知らない人が見たら「なんじゃこれは」となってしまうでしょう。
こうなるともうメロディだけじゃなくて内声や低音まで自分で演奏しなくてはなりませんから、「一人でカルテット」状態ですね。

このブログは「友だちいない研究所」と言いますが、バッハの『無伴奏』も「友だちがいないから誰にも頼れず、全部自分でやらなきゃいけない」みたいなもんですね。

さて低音が動く上でメロディが鳴り響くようなところでは、どんなふうに音を出したらいいのでしょう?

『無伴奏』ではこういうとき、メロディを切らなくてはならない


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これはバッハの『無伴奏』のうち、ソナタ第3番より「ラルゴ」の一部です。
シ♭~シ♭というメロディの下をレミドという低音が動いています。

「バッハはオルガニストだったから、オルガン的響きを意識してシ♭~シ♭をつないでレミドと弾くんだろうね」

そう思いながら練習していました。けっこう弾きづらかったのですが。

で、レッスンの日になって先生の前で演奏すると「そりゃ違います」。

え? 何が違うの?

「バロック音楽の場合、音符がつながっているように書かれていても音と音の間に若干の隙間があるんです。だから、シ♭~シ♭とつなげないんですよ。シ♭ /  シ♭ のようにシ♭とシ♭は少し区切るんです」。

で、実際に家に帰ってCDを聴いてみたらたしかに少しシ♭とシ♭の間に隙間がありました。
でもあからさまな隙間ではなく、ほんとうに「若干の」隙間です。
ここが加減の難しいところで「隙間を開けよう」という意識があるとものすごく隙間ができてしまい、逆に「自然な感じにしよう」と思っているとベタベタでつながってしまうという、「アマチュアはここで詰む」パターンです・・・。

聴いているぶんにはほんの1秒で通り過ぎていく場面であってもこんなに注意しなければならないなんて、やはりクラシックはアマチュアが簡単に手を出せるもんじゃありませんね・・・。

ちなみに私が使っている楽譜はこちら。
初めて弾く人にもわかりやすく、細かく指示が書き込まれているので少しはラクに攻略できるはず・・。といってもそうとうハードルが高いのは変わりませんが・・・。