ヴォーン・ウィリアムズは20世紀に活躍したイギリスの作曲家で、イングランドやウェールズなどの民謡に触発された作品を多く残しています。

「タリスの主題による変奏曲」や「富める人とラザロの五つの異版」、「グリーンスリーブスによる幻想曲」などが特に有名ですが、ヴァイオリンを弾く人なら知っている人は知っている、知らない人は知らない(当たり前)の名曲「あげひばり」。



静岡に住んでいたときに習っていたヴァイオリンの先生はこの曲を知らずに、逆に生徒の私が知っていて楽譜を貸したことがあります。
それくらいマイナーな曲だろうと思っていたのですがキム・ヨナ選手が2007年にSP曲に採用していました。なんだ、やっぱり知ってる人は知ってるじゃないか!

この作品は1914年発表。夏目漱石の小説にもときどき言及されるジョージ・メレディスの同じ名前の詩(The Lark Ascending)にインスパイアされ、スコア冒頭にもその詩を引用しています。
そう、夏目漱石が小説でときどき言及していた、あのメレディスです。

ひばりが飛び立ち舞い始める/そのさえずりは銀の鎖/どこまでも連なる銀の鎖/チチチチ、ヒューヒュー、ピーチュルチュル/その大空が満ちるまで歌いたいのか/ひとくさり、またひとくさり/大地の愛を讃える歌を/はばたけ、もっと高く(以下略)

ABCBAの形式で書かれており、アンダンテの静かな弦楽器のハーモニーのうえにソロのヴァイオリンがひばりの歌を歌い上げます。中間部では人間の世界のような雰囲気となり、そしてひばりがなお活発にさえずり、そして雲の彼方へ飛び去ってゆく・・・。

全曲の動画はこちらです。



イギリス人はこの曲を相当気に入っているらしく、雑誌などの人気投票でも決まって上位に食い込むとか。のびやかな田園風景を思わせる弦楽器のさざなみといい、のどかなひばりの声といい、たしかにイングランドの典型的田舎=彼らの心象風景(ふるさと)というべき世界なのかもしれません。

一聴してわかるように、本当におだやかな曲であり、日本でももっと聴かれてもいいはずですが残念ながら「あげひばり」に限らずヴォーン・ウィリアムズの作品そのものがオーケストラの演奏会のプログラムに載ることはめったにありません。

というわけで彼の作品を味わおうとするとどうしてもCDに頼らざるを得ません。
バリー・ワーズワース指揮、ニュー・クイーンズ・ホール管弦楽団またはネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団によるものがわりと名高く、たとえ廃盤でも中古商品が数百円で手に入るのが嬉しいですね。

それにしてもキム・ヨナ選手もどうやって「あげひばり」という曲と巡り合ったのでしょうか・・・?