ローラ・ボベスコってあまり知られてないヴァイオリニストです。

タワーレコードの紹介ページにはこう紹介されています。

1919年8月9日、ルーマニアのクレーヨーヴァー生まれのヴァイオリニスト。2003年9月4日没。父にヴァイオリンの手ほどきを受け、6歳で演奏会を開く。その後、パリに留学してエコル・ノルマルとパリ音楽院で学び、偉大なヴァイオリニスト、ジャック・ティボーや、ジョルジュ・エネスコにも教えを受ける。35年、パリ・デビュー。37年、イザイ国際コンクールで最年少優勝者になり、一躍脚光を浴びる。第二次大戦後、ベルギーに帰化して国籍を得、国際的にも活躍を続けた。また、リエージュとブリュッセルの音楽院で教鞭をとる一方、ブリュッセル・ゾリステン(後にイザイ弦楽合奏団と改称)を組織し、指揮者と独奏者を兼任した。80年の初来日以降もたびたび来日し、特に室内楽や小品における美しい音色と気品のある演奏で感銘を与えた。

彼女の音色に耳を澄ますとすぐに気づくはずです。最近ありがちなヴィブラートを抑制してすっきりと流線型をイメージさせるような(アップルの製品の形状のような)演奏とはまるで逆ベクトル。

艶やかさのなかに品があり、教養あるお嬢さんが世間の波間に揉まれないままそのまま年を重ねたらこんな音を出すようになりました、といえばなんとなく伝わるでしょうか。
別の言い方をしたら、「もしグリュミオーが女性だったら」的な音色です、といえばある程度はイメージがつくでしょうか。



これはまだ若かった頃のサミュエル・バーバーの録音。
ボベスコってついフランクとかモーツァルトとか、古典~ロマン派までが守備範囲だと思っていたんですが、現代音楽もちゃんとレパートリーに加えていたんですね・・・。

一聴してすぐお分かりのように、現在世界を席巻しているアメリカ系ヴァイオリニスト(アメリカの教育機関で学んだ他の地域出身のヴァイオリニストも含みます)と比べてみると、ヴィブラートの使い方や音程のとり方、フレージングがまるで違っていて驚きます。
たとえば同じバーバーを録音したヒラリー・ハーンのCDと聴き比べてみると一目瞭然でしょう。

これは時代の流れというよりも、二人が根ざしている教育や伝統の違いであり、「深い溝」と言っても過言ではないでしょう。

同じ音楽を演奏しているはずなのに、じつはまるで違う「音楽」だったというのは、なんだか同じ場所で同じものを見ていたつもりがじつはそうじゃなかったという「君の名は。」のようなお話です・・・。

ローラ・ボベスコの名前はすこしずつ忘れ去られようとしているようですが、このまま消えていくにはあまりにも惜しい。これだけの個性はもっと知られて良いでしょう。
幸い、たまにタワーレコードがかつてのCDを復刻して店頭でオリジナル商品として販売することもあるようです(私もそれで3枚組のアルバムをゲット)。見かけたら即買いして損はないでしょう。

いつまでもあると思うな親とCD。